日本農業新聞連載「SAWACHI データ駆動型農業の夜明け」の取材①

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日本農業新聞の四国支局の企画により2023年2月から日本農業新聞の中四国版に計4回に渡り、IoPプロジェクトについて記事が連載され、記事制作にあたり日本農業新聞の記者によるIoPプエジェクト関係者への取材が行われました。 本記事は、高知農業技術センターへの取材をまとめたものです。

取材では記者さんから、生理生態の見える化を中心に熱心な質問が投げかけられ、IoPの研究への関心の高まりが感じられました。

現在取り組んでいる内容はどのようなものですか?

高知大学と協力して、ハウスで温度や湿度をモニタリングして植物の光合成や蒸散などの生理生態情報を見える化するAIの開発・実証を行っています。

光合成、蒸散、LAI(葉面積指数)、葉温が分かるようになっています。こうした情報は、農家さんがどう環境を制御したらよいかの指標になります。

こうして得られる生理生態情報は、自動制御に活かすことができると考えています。

例えば、蒸散量に合わせたかん水管理があります。現在は日射量に応じたかん水管理、日射比例のかん水管理技術が普及していますが、植物の成長段階により日射の影響の受けやすさが違うため、時期に応じて設定値を変えなければなりません。蒸散量に合わせた管理ができれば、効率的な管理に繋がるので、ナスとニラで試験を始めたところです。

また、暖房機器の重油使用量がどの程度になるかのシミュレーションの研究も行っています。何軒かの農家さんで、実際の暖房機器の稼働状況、ハウス内気温、外気温のデータを取得しており、外気温と目標温度から重油使用量を予測するAIを開発中です。光合成の予測とあわせて、経営の最適化のためのツールにしていくことを見据えています。

現場への普及という観点ではどのような事を行っているのですか?

この取り組みは農業技術センターだけでなく、農業振興センターも一緒になって農家さんを巻き込み、農家さんの圃場にもモニタリング装置を入れさせてもらっています。

蒸散量に合わせたかん水管理を行っている方もいて、日射比例かん水装置のように自動ではなく手動やタイマー設定ですが、そのように生理生態情報を使った制御を試されている農家さんがおられます。

普及指導においても、例えばどんな人が一番高い光合成を達成しているかの比較や、どんな操作が光合成にどう影響しているかの確認も出来るようになります。ある程度、温度や湿度を上げたらいいとか曖昧だった部分に目安がつけられるようになると期待しています。特に、CO2制御の効果が光合成にどれだけ効いているのかが数値で出てくるので、差を実感してもらえて普及がさらに進むのではないかと思います。

世界初と伺いましたが、どのあたりが世界初なのですか?

圃場レベルで生理生態をリアルタイムに計測できるのは世界初ということです。

カメラでナスの群落の光合成量を算出しているというのが凄いことです。植物の光合成量を推測する他の企業などでは、トマトやパプリカなどメジャーどころの光合成量を環境データから算出していて、それは昔からある光合成の数式モデルに入れてしまえば出すことは可能です。

ただ、難しいのは品目ごとの違い、葉面積、群落の大きさを加味することなどです。そこが世界初ということだと思います。

カメラで自動取得している花の数と実の数というのは、どういったことに使う指標なのですか?

これもある意味収量予測のためで、花が実になって収穫物になりますが、収量には山谷ができます。この山谷は植物の負担や収量の不安定化につながるため、花や実の数を人為的に抑えるという管理が必要な場合があります。そのため、花や実の数を正確に知ることが重要です。普及員や農家さんも目視で計測するのですが、カメラを置けば毎日計測できます。

現在、実証されている地域について教えてください。

ナスは安芸や芸西です。ニラは南国市と四万十町、香美地区です。ニラは定植や刈り取りの時期や栽培環境が農家さんによってバラバラではあるのですが、葉ものなので単純化しやすく、カメラから出荷規格の草丈かどうかが高い精度で分かります。ナスの場合は一面同時に育っているのですが、ニラは同じハウス内でも刈り取り時期が違い難しいところもあります。それをどう把握して分析するのか、農家さんにどうフィードバックするかが課題ですね。

進めている研究の中で農家さんが最初に行える取り組みは、何でしょうか?

蒸散量を指標としたかん水の制御だと思います。手動でもタイマーでも実践はできると思いますし、自動化するにしてもやることは日射比例と同様です。