IoP技術者コミュニティが成果発表会を開催

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2月14日に高知県産業振興センターでIoP技術者コミュニティの成果発表会が行われました。オンライン参加・会場参加、併せて約90名の方に参加いただきました。IoP技術者コミュニティは、IoPクラウドに関連する技術的知見が得られ、具体的な技術の習得ができる組織をコンセプトに設置されたテクノロジーを中心とした産学官のコミュニティです。県内企業21社、県外企業11社の合計32社で構成されています。参加者は、違う組織の人たちと楽しみながら新しいテクノロジー分野へ挑戦してスキルアップすることを掲げ活動しています。当日、成果発表会の会場横には、実証実験の成果や企業が開発した製品、開発技術について紹介する展示コーナーがあり、来場者の質問に対して企業の担当者が熱心に説明する場面も見られ盛況でした。

成果発表会のはじめに、高知県農業振興部の有馬副部長から開会の挨拶がありました。
「IoPコミュニティはIoPクラウドに関する技術的な知見が得られ、具体的な技術を習得できる場として発足しました。毎月の定例会や講座などで研鑽を行いながら交流を深めています。自治体や大学、企業の皆様方が手を携え産学官が一体となり進めることがIoPの推進に重要であることから本コミュニティの取り組みは大変意義があります。成果発表会で得られた気付きや成果を皆様方のそれぞれの場で活かしていただき、積極的な取り組みに繋がることを期待しています。」

来賓紹介が行われた後に、IoP技術者コミュニティの1年間の活動報告が、宮地電機株式会社の斉木様からありました。
「2022年8月から活動をはじめ、SAWACHIエンジニア向けの講座を全3回、毎月1回の定例会を全5回実施しました。全3回の講座参加者は県内企業12社述べ41名。定例会は県内外を含め、全5回の開催で述べ65社103名の参加がありました。第1回講習会「SAWACHIエンジニア養成講座」ではIoPの基礎技術であるIoTの座学があり、マイコンを使ったハンズオンを行いました。そして、Webアプリ開発やセンサーデバイス等を活用して使用するSAWACHIの原型となる基礎技術を学びました。第2回講習会の「SAWACHI画像AIセンシング講座」では、世の中のAIに関連した最新トレンド、画像認識、文字や音声の合成といったAIを実際に体現しながら機械学習の仕組みを学びました。第3回「SAWACHIデジタルツイン講座」では、SAWACHIのデジタルツインのデータのモデル解析やデジタルツインを表現するために対応したWebGLについて学びました。ハンズオンでは、IoPクラウドに接続された施設園芸用ハウス模型とその仮想世界をリアルタイムに連動させました。定例会は毎月1回実施しており、フェローや企業による技術者向けの講座、実証事業社の事業進捗報告、トークセッションを実施しました。当初目標であった自分とは違う組織の方と楽しみながら新しいテクノロジー分野に挑戦し、スキルアップするいう目標は達成できたのではないかと思います。」

次に、高知県内の企業による実証報告が行われました。

(1) JV4社の共同企業体(株式会社高知電子計算センター、ぷらっとホーム株式会社、株式会社NTTアグリテクノロジー、株式会社高知システムズ)

「最新の通信規格IEEE802.11ahを活用したIoP利用者拡大をテーマにしました。広域性・高速性・免許不要といったWi-FiとLPWAの特徴を持つ通信規格を利用することで、端末ごとの通信契約が不要になれば、農家様の生産効率化に繋がると考えました。また、カメラ画像を活用した新たなユースケースの創出も試みました。
生産者の通信コストの負担軽減を検討した中で、圃場の中の各デバイスにSIMをつける方法ではそれぞれ通信契約が必要でしたが、11ahモジュールを各デバイスに取付け親機との間の通信を無料にしました。親機からインターネットへの接続は有料ですが、各ハウスやデバイスから基地局へ通信コストがゼロになり、約3割程度のコストの削減が見込まれます。
新しいユースケースの創出として、今までWi-FiやLPWAでできなかった広い場所や電波の死角の多い所でも、プライベートネットワークが組める11ahを利用できます。ハウスの出入口の動画や静止画像でのモニタリングでも、安価なカメラで、画像データをIoPクラウドへ連携できることを実証しました。画像解析にも利用可能であり、関連事業者の参入機会が拡がる可能性が高いです。
今後の課題として、1点目は、地形の状況等によっては想定より電波が届かないケースがありました。2点目は、共同利用となる「親機の導入費」や「光回線の導入費・運用費」の負担の取り決めです。契約プランや機材の費用にもよりますが、8セットセンサー以上の集約によりSIM利用よりもコストメリットが見込まれます。
生産者からは、「温湿度のムラの確認ができそう」「ハウスの端や奥にある作物の状況が画像でわかる」「天窓開閉や作物状況確認に画質は十分だった」の意見をいただきました。
ビジネス展開としては、高知県内の園芸団地などのハウス集積エリアに対して、コスト削減のメリットが見込まれることから、各自治体やJAとの協力のもと、IoPクラウドの更なる県内への普及拡大を目指していきます。また、農業分野に限らず、地滑り監視や鳥獣害監視などの地域防災分野にも活用が可能なため、県内の様々な産業での幅広い利用を目指しています」

(2) 株式会社長尾商会

「IoPクラウドに気象庁のデータが入っていますが、POTEKAが提供する実際に観測された気象情報を役立てるため、農家が使いやすいSNSを活用したサービスを開発したいと考えました。アメダスではほとんどの箇所で測定されていない気圧や湿度もPOKETAでは測定可能です。2020年の12月に最大風速23.1mの強い風を観測、公民館の屋根がはがれる被害がありました。少し離れた所のアメダスでは強い風は観測していませんでしたが、POKETAでは計測されていました。

農家さんが使いやすい形で情報提供を目指し、普段使っているSNSなどの聞き取りや気象計を農家さんのビニールハウスや畑の隣に設置し観測しました。突風が観測された香美市を選んで6基設置。長尾商会で独自サーバーを立ち上げて、サービスを開発し、IoPクラウドとPOTEKAのデータを入れて農家さんに情報提供をしました。

実証にあたり、行った3つのことを紹介します。1つ目は、時系列データベースの採用です。独自サーバーでは、灌水システムや人工衛星の制御にも実績があるInfluxDBを採用してパフォーマンスを維持しました。2つ目は、外部APIの使用です。農家さんにリサーチするとLINEを使っており、通知機能はLINEを採用しましたが、セキュリテイーに関して仕組みから学ぶ必要があり試行錯誤しました。3つ目は、小規模チームでの開発です。当社では開発の役割分担をする人的余裕がありません。IoTからブラウザまで少人数でも開発を行うために、1つ習得すれば、それ以外の分野でも使える汎用性のあるスキルを身に付けることを念頭において進めました。

農家さんからは、「万が一強風などの時の証跡として心強い」「色々なリクエストに応えてくれて助かる」という声をいただきました。ただし、営農の自動化に興味があるが、気象など特に突風が何時吹くかは分からないので、優先順位は低いと言うことでした。

成果として、POTEKAはブラウザ経由で情報を出しているが、APIはあまり使われた実績がないので今回、一定の実績を拓けました。今後、農業分野でウェブサービスを開発し、無料で農家さんにも使ってもらえるプラットホームの開発や画像処理やWebXR、AI推論の分野でも役立つものに挑戦したいです。本業が消防点検なので、得られた知見を活かし、自社事業の改善にも取り組んでいきたいと思います。」

(3) ネポン株式会社

「土佐市のユリ部会で取り組みを行いました。業務課題のセンサーデバイスの低コスト化では、部会全員が導入しやすいLPWA通信システムを設置。1圃場に安価なLPWA通信器を設置して、1台で15圃場のデータをあげる構成にしました。これまでのデータ収集システムと違い、LPWA通信システムでは、温湿度、CO2、日射のセンサーと通信器は1圃場あたり15万円と導入コストを抑えることができます。

「生産者任せの暖房」と「無駄な暖房をしている生産者が多い」という課題に対しては、Chabu-Daiロガーのグラフ化はもちろん圃場の平面図に温度と機器の稼働状態を表示し、ハウスが現在どのような状態なのかを視覚的に分かり易くし、データにもとづいた運用を促しました。

分析ツールを利用して取り組む改善では、ハウス内のデータを収集し、プラットフォームに貯めた後にデータをBIツールTableauに落とし込んで分析し、分析レポートを生産者にフィードバックしました。ハウス内の温度ムラを可視化したヒートマップを活用し、加温機とヒートポンプが動いているときの状態、ヒートポンプのみを使用しているときのハウス内の状態、午前・午後の温度ムラの状態を可視化。機器の稼働の改善とダクト施設の改善、温室環境の改善、燃油消費の改善に繋げました。

実証実験では、部会関係者の皆様、県普及員やJA営農指導員の方から「データ収集や整理の時間を削減した時間を利用して分析を行い、大きな成果を上げていきたい」と聞きました。また、生産者からは「ハウス内の状況が分かることで、データからの気付きを使って、なんとなくの農業から根拠のある農業へ実装していきたい」との言葉をいただきました。

今後は、生産者に対して、デジタライゼーション環境の提供、我々でいう暖房機に対する付加価値をデータ情報として用いて最大限生かしたいと思っています。生産者のひと休み(時間の余裕)、ひと工夫(新しい工夫、技術)、ひと儲け(収量・収益が上がる)のような環境の構築を検討しています。さらに弊社のプラットフォームChabu-DaiからSAWACHIの方にデータを上げることで、経営のDX、営農のDX、栽培のDXが可能です。IoTプラットフォームと企業が連携して施設園芸の発展に向かっていきたいと考えています。」

次にIoP技術者コミュニティの参加企業によるセッションが行われました。司会のプロンプトKの天辰さんからの質問に株式会社高知電子電算センター、株式会社太陽、ニッタ株式会社の3名の参加者が答える形で進行しました。参加者に対して、コミニティへの参加動機や受講しての感想、今後の展望などを伺いました。

(1)株式会社高知電子計算センター 小西さん

「画像認識が印象に残っています。無料で簡単に利用できるサービスも参考になりました。色々な企業の方と話したグループディスカッションが貴重な体験でした。ビニールハウスの中に入る機会もあり、栽培する品目に合わせた園芸の機械や測定装を間近で見ることができ、普段の仕事に活かせる事ができたと感じました。また、プライベートにおいても、SNSから画像のダウンロード時に、ジャンルごとにフォルダ分けをしていますが、その画像の振り分けをAIで自動判別が出来ると楽なので、振り分けアプリを自分でつくってみようと思います。現在、IoPクラウドの運用をサポートしており、先輩から少しずつ引き継いでいるところです。今後、頑張って仕事を覚えていきたいです。」

(2)株式会社太陽 浜田さん

「現在、E&A事業部で、養液ろ過装置や廃油ボイラなどの環境関連商品、農業機械の設計・開発に携わっています。社内に電気・制御の技術者はおりますが、ITに関しては一部個人の自己研鑽頼みが現状であり、見識を広めるために参加しました。具体的に半田付けのやり方からやっていただいて、必要な概念や考え方を教えていただくと同時に、ハンズオンで色々手を動かして感覚的にこういったことができることがよく分かる講座でした。AIに関しても非常に概念が分かりやすく教えていただいたので、初心者には非常に助かる講座でありがたかったです。環境関係の製品を今の時代の需要に応えられるように拡販し、開発し続けて事業を拡張したいと考えています。高知県出身のエンジニアリングが好きな方が、当社に来て腕を振るってくれるように頑張っていきたいです。」

(3)ニッタ株式会社 山口さん

「新しい事業の探索する部署におり、機能性テープの開発を行っています。農業分野での取組めないかと勉強をしていたところ、農業にIoTやAI、デジタルツインが重要になることを知り、知識をつけるために、実際に手を動かして学べる機会があるということで、受講しました。高知大学のIoP塾に参加して植物生理なども勉強しましたが、通信の理解を深めるため、技術者コミュニティへ参加しました。施設園芸についての知見がまだまだで勉強をしているところですが、SAWACHIやつなぎ方が分からないので勉強して役に立てるようになりたいと思っています。今後も講座受講の機会があれば新人も含めて参加することで、新しい仕事やアイデアのきっかけになると考えています。」

次に来賓の方々に、講評をいただきました。
「多くの企業さんや大学の先生などが農業の世界だけでなく、それぞれの知見を結集して高知県の農業をよくしようと言う熱意が、すごく心強く感じました」

「高知県の農業者というのは新たな取組みに貪欲で研究熱心なところがあるので、一緒に組めて成果につながった部分もあると感じました」

「エンジニアの方に農業に関して勉強していただきながら、私共も最新技術を勉強して一緒になって取り組んでいきたいと思います」

「産業の発展のためには、その産業だけではダメだと思います。今回の取り組みをどんどん広げて高知県に農業を支えるための産業クラスターをつくっていくという所まで進んでもらえると、本当に素晴らしいですね」

最後に、農業振興部の岡林IoP推進監より閉会の挨拶があり、成果発表会は終了しました。

「実際の製品化にはもうワンステップ必要と思いましたが、ぜひ現場に実装するまでお手伝いさせていただければと思います。製品の展示会もありましたが、6社が製品化に至っています。IoPの取り組みは満4年を迎え、やっと中間地点で土台ができました。企業の活動を支援する予算を確保して、関連産業の連携を深めて高めていきたいと思います。来年度は、技術者コミュニティの場に加えて、実際の現場を知る会や現場の課題を共有する会もやっていきますので、積極的に参加いただいてご支援いただくようによろしくお願いします」