第7回四国オープンイノベーションワークショップ -パネルディスカッション-

特集

“高知発”一次産業DXにおける産業創出について

ファシリテーターを務めた高知大学次世代地域創造センター長、石塚悟史氏が「一次産業を切り口に、IoPの方向性を意見交換してほしい」と投げかけて、パネルディスカッションはスタートした。

最初に産総研四国センター所長の原市聡氏が「四国は日本でも少子高齢化の先進地域。労働人口の減少に対応することがスマート化のメインだと考えている。スマート農林水産業を進めると、その周辺に工業に関する産業がたくさん生まれる可能性がある。その意味から、高知県のIoPプロジェクトは、工業生産に関しても新しい道を開くのではないかと注目している。また、生産のフィードバックをデータサイエンスに回すことで、最適なDNA設計につながり、これまでにない品種改良を生み出すかもしれない」とIoPに対する期待の大きさを語った。

高知大学次世代地域創造センター長 石塚悟史氏
産総研四国センター所長 原市聡氏

JA高知県春野胡瓜部会副部会長の越智史雄氏は、生産者の立場から、「IoPには当初から協力している。春野地区も高齢化に伴って農家は減っているが、土壌や肥培管理、病害虫のコントロールといった栽培の基礎部分で収量を何とか維持してきた。従来の経験ベースの農業を、新しい形の農業に転換しなければならない。そうして生産を伸ばして産地を維持し、農家の生活を豊かなものにする。県と目指すところは同じだ」と話す。その一方、「光合成を促すために、化石燃料を使って炭酸ガスを発生させることもある。コストが上がるのに加えて、環境のことを考えると、今後燃やし続けてもいいのかという思いもある」と生産現場から見た課題をあげた。

生産者側からの課題については、JA高知県春野営農経済センター営農渉外課係長の長﨑直人氏も複数提起。「ひとつはIoPでは現状、ハウスの地上部のみが“見える化”されているが、土の中も同じようにデータ化できないだろうかという点だ。同じように、水耕栽培でも水の中を“見える化”してほしい。また、現場では労力的な部分がかなり大変。“見える化”で栽培管理はできても、農家の高齢化もあって、実際の作業が遅れる場合がある。収穫ロボットなど、作業の自動化、機械化はどのように進んでいくのか知りたい」と農家の声を代弁した。

JA高知県春野胡瓜部会 副部会長 越智史雄氏
JA高知県春野営農経済センター 営農渉外課係長 長﨑直人氏

現場から見た課題について、まず高知大学IoP共創センター長の北野雅治氏が応えた。「確かに、現状では土の情報は使われていない。空気はモノが移動しやすい媒体だが、土は肥料や水などが動きづらく、温度も含めてムラがあるからだ。少し離れただけで違う環境になり、正確にセンシングするには今のところ大きな壁がある。炭酸ガスについては、IoPの情報から光合成の分布や時系列がわかるので、今後、無駄に使わずに済むように農家さんが工夫できる状況になるのではないか」

高知工科大学情報学群教授の福本昌弘氏は、農作業の自動化、機械化に関して回答。「アスパラガスのように、地面から出ているものの収穫については大分進んでいる。一方、キュウリやナスなどの実は、ロボットが自在に収穫できるようになるには5年程度では無理だと思う。省力化については、人材をうまく使うことが大切だ。収穫時期を均一にならして、作業が集中しないようにする。あるいは収穫時期を正確に予測して、その日にだけ労働力を集中するといった方法が考えられる。収穫時期については、IoPによってある程度コントロールできるようになるはずだ」と専門の立場から説明した。

高知大学 IoP共創センター長 北野雅治氏
高知工科大学 情報学群教授 福本昌弘氏

高知県農業振興部IoP推進監の岡林俊宏氏は、「以前は農家の手作業をそのまま機械化しようとしていた。しかし、そうすると時間やコストがかかることも多い。近年はその逆に、農家がある程度、機械に合わせようとする動きも見られる。スマート農業でも、こうした考え方の転換が必要ではないか」と分析した。化石燃料に関しては「高知県は2050年のカーボンニュートラルの実現を目指している。農業でもぜひ実現したい。炭酸ガスを吸って酸素を出すのは植物だけだ。燃料を適切に使って、むしろ『カーボンフリー野菜』といえるくらいの技術革新が必要だと思う」と力を込めた。

産総研の原市聡氏も、浮かび上がった課題に対して言及。「土壌のセンシング、機械化、エネルギーなど、産総研にはどの分野でもトップレベルの研究者がいる。短期的に考えるべき方法論と、中長期的に準備しておく解決策を並行して行わないといけない。それにしても、こんなに幅広い課題が出てきた。これが高知県のIoPプロジェクトのすごさだと思う。産総研も連携させていただき、一緒に考えさせていただけたら、お役に立てるかもしれない」

高知県農業振興部 IoP推進監 岡林俊宏氏

白熱した議論ののち、ファシリテーターの石塚氏が「いまやるべきこと、将来的にやらなければいけないことなど、キーワードが数多く出てきた。IoPクラウドには、世界でも類のない高品質なデータが集まるはずだ。これは農業だけではなく、製造業関係も含めた、すごいビジネスチャンスではないか。ぜひ活用いただければと思う」と語り、1時間にわたるパネルディスカッションを締めくくった。

■ファシリテーター

高知大学次世代地域創造センター長 石塚悟史氏

■パネリスト

産総研四国センター所長 原市聡氏

高知大学 IoP共創センター長 北野雅治氏

高知工科大学 情報学群教授 福本昌弘氏

高知県農業振興部 IoP推進監 岡林俊宏氏

JA高知県春野営農経済センター 営農渉外課係長 長﨑直人氏

JA高知県春野胡瓜部会 副部会長 越智史雄氏