活用事例

Vol.28

高知から、AIで日本の農業を変えていく

高知大学 IoP共創センター

岩尾忠重さん

高知大学 特任教授
IoP共創センター 研究開発部門 部門長

研究者

IoP共創センターで何に取り組まれていますか。

IoPプロジェクトの核になる2つのエンジンの開発に取り組んでいます。

私は長年、総合ITベンダーの富士通でAIやシステムの研究・開発に携わってきました。センターではこれまでの経験を活かして、生理生態AIエンジンと営農支援AIエンジンの開発を進めています。
生理生態AIエンジンは、植物の生態を数式化し、AIによって植物の振る舞いを推定します。ニラやネギなどの葉菜類は、光合成によって作られる糖を養分として成長し、それがそのまま草丈になるため、高い精度で草丈を推定できるAIエンジンが開発できました。一方、現在取り組んでいるナスやピーマンなどの果菜類の場合、茎葉と果実が交互に成長するため、養分が双方に使われるなど複雑です。そこで環境から結果を導き出すのではなく、環境の中のプロセスをそれぞれAI化した複合ハイブリットAIにより、現在、モデルの作成に取り組んでいます。
また、生理生態AIエンジンによる推定だけでは、農家への直接支援にはつながりません。そこで合わせて開発しているのが、営農最適化モデルやボイラー設定シミュレーションといった営農支援AIです。例えばボイラー設定シミュレーションでは、設定温度に対してかかる燃料費を算出するモデルを作成していて、この2月にはリリースする予定です。さらに、今後は推定収量や販売価格、利益、コストまで網羅した経営支援AIの開発も視野に入れて、進めていきたいと考えます。


生産者とのコミュニケーションをどのようにとっていますか?

さまざまな人をつなぐITツールで、コミュニケーションを活性化させています。

エンジン開発に向けては、農家の方の協力やアドバイスが欠かせません。現在、IoPを活用して栽培現場におけるさまざまな課題を解決するためにIoP農業研究会を設立し、生産者や企業、県職員、研究者らの会員100人以上が意見交換などを行っています。
私は、この会員をつなぐために、チャットの様にやり取りができる場をネット上に準備しました。いわば、営農に対してのIT支援ツールというわけです。今後は、個別に相談できる窓口や情報共有するための黒板機能を新たにリリースし、みんなで営農するためのツールとして整備していきます。
このように、産学官民が一体になって新しい施設園芸に取り組んでいる地域は、高知県のほかにはありません。IoPプロジェクトを成功させるためには、それぞれの連携が必要です。私はITの専門家として、研究だけでなくIoPに必要なツールを現場にどんどん提供していきたいと思っています。


IoPの将来を担う人材育成をどのように進めていますか?

AIを便利なツールとして使えるよう、社会人や学生に教えています。

現在、幡多農業高校の教員、佐賀県と広島県の農業技術センターの職員が、研修生としてセンターで学んでいます。彼らは農業が専門ですが、データ解析の手法やAIについて教育しています。高知県農業技術センターの職員に対してはゼミを行い、データ解析やハードウェアなどについて教えています。AIを便利なツールとして使えるように、道具を教えるという観点で教育しています。
高知大の学生に対しては来年度、3年生の必修科目として農工情報共創学の講座を開講します。農学はもちろん、プログラミングやデータ解析、プロジェクトマネジメントなど、農業・情報・共創の要素を入れたカリキュラムを組み立てているところです。


IoPプロジェクトに関わる意義は何ですか?

高知から、AIで日本の農業を変革することです。

農業は、文明を支える最重要な産業です。しかし、日本の農業が置かれた現状は、例えばカロリーベースの食料自給率が40%にも満たず、農業従事者の高齢化が進むなど、非常に厳しい状況です。そのような課題の解決に向けて、AIの研究者として関わることができることにやりがいを感じています。学術的な興味も深いのですが、どれくらい社会の役に立つのかが重要だと思っています。 
日本の農業を変えていくために、まずは高知から農家の皆さんに元気になっていただきたい。そのために、私の持っている数理・AIの知見を活かすことができればと思います。