活用事例

Vol.11

AIエンジンの開発で施設園芸を変革に導く

高知大学 IoP共創センター

北野雅治さん

高知大学 特任教授
IoP共創センター センター長

研究者

IoP共創センターの役割は何ですか?

農業の“見える化”を可能にする仕組みづくりを構築

農業はものづくり産業のひとつです。同じものづくり産業である製造業などはセンサーなどを駆使して製造工程すべてが見える化され、人間が制御できるようになっています。しかし農業の場合、製造工程とは作物が光合成をし、花を咲かせ、実をつけるといった生理的なプロセスで、それを生産現場で目に見えるカタチにはしづらいものです。そこで、農業の生理的プロセスの可視化にチャレンジしようというのがIoPプロジェクトです。
とはいっても、農家のハウスでプロセスすべてを測るセンサーを使い、毎日測ることは不可能です。そのため、比較的容易に導入できるWebカメラや測定機器を使って環境と画像のビッグデータをIoPクラウドに集め、AIエンジンによって分析し、クラウドを介して農家で共有できる仕組みを構築します。センターでは農家と密接に連携しながら、AIエンジンの開発を中心に研究を進めています。


どのようなAIエンジンが開発されているのでしょうか?

「生理生態」と「営農支援」の2つのエンジンを

ひとつは、生理的なプロセスを見える化する「作物生理生体AIエンジン」です。株当たりの光合成や蒸散、葉面積、開花数、着果数などに加え、1週間後の収穫量がどれぐらいになるのかといった情報も生み出すことができます。
さらに2022年度には、生理的な情報をもとに営農支援情報を生み出す「営農支援AIエンジン」の開発を進めます。収量や収穫日の予測、収穫調整に向けた環境の最適化の情報を生み出すエンジンです。農家はこれらの情報を共有し、創意工夫して作物生産に取り組むことができます。そうした改善により、収量などがどう変化したかについてもAIが分析。AIが抽出した優れた技術を農家が共有することで、技術改善の全体のボトムアップにもつながります。
最終的にはこの1、2年で完璧なIoPクラウドに2つのAIエンジンを実装することが目標です。


IoP成功のカギはどこにあると考えますか?

より広範で大量のデータがAIエンジンを育てる

農業技術センターや農家との連携・連動が不可欠です。AIエンジン開発に向けて、大学が理論を組み上げ、大学内の実験的な圃場でデータを取り、モデル化を図ります。さらに、生産現場により近い農業技術センターで取ったデータも活用しながら、一緒に最適なモデルに仕上げます。例えばAIエンジンをわれわれがつくるといっても、エンジンに学習させるデータは農業技術センターから提供を受けます。農業技術センターが蓄積したデータは膨大で、活用することで非常に大きな効果をあげることができます。
IoPクラウドを活用する農家が増えることも、成功するための欠かせない条件です。クラウドの情報が集まれば集まるほど大量のデータを分析でき、AIの成長を促すことができます。
まず、農家の皆さんに見える化を実感していただくため、2022年9月をめどに最低限の生理生態情報と営農支援情報を共有できるよう、IoPクラウドにAIエンジンを実装する予定です。


多くの農家の参加を得るために考えているミッションは?

理想のIoP農場で、農業の未来を実感してほしい

農業者と一緒にどのような情報をどのように見せ、どう使うかを考えるためにIoP農業研究会を立ち上げ、4月から活動を開始します。農家や農業普及指導員、JAの指導員など現場に近い人たちと課題や解決法を話し合い、エンジンの改善などを共に考えることで、一層IoPを盛り上げていきたいと思います。
将来的には、農家にプレゼンテーションできるIoPの成功事例として、「IoP未来農場」を作りたいと考えています。例えば高知大のキャンパスに20アールのハウスを建て、そこでエンジンの実証研究をしながら営農し、学生実習やインターンシップを受け入れる。新規就農者として毎年3名ぐらい雇い、適正利益を確保する。実現すれば、IoP利用者を増やすのに非常に効果的だと思います。