活用事例

Vol.09

IoPプロジェクトが進めるデータ農業の人材育成の一貫として、高知大学と高知工科大学が合同でデータ農業の合同講義を行いました。5日間の集中講義を通して、小型コンピューターを制作しビニルハウス内の環境を測定、ハウス内の環境データを分析することで、データ農業についての理解を深めました。授業の目的や実習の様子、学生の反応について、担当教員である高知大学の森教授、高知工科大学の福本教授にお話しを伺いました。

データ農業をやってみよう!IoPサマースクール

IoPプロジェクト 人材育成

高知大学 高知工科大学 合同講義

研究者

今回の合同講義を開催された目的は?

データ農業への実践的な応用力を養う、情報科学の知識と実習

近年、将来的なデータ農業の実現に向けて、農業分野においてデータサイエンスを積極的に導入しようとする機運が高まっています。高知県では、2018年より、産官学共同プロジェクト『“IoP(Internet of Plants)” が導くNext次世代型施設園芸農業』が実施されています。本授業は、同プロジェクトに参画する教員が、所属大学(高知大学・高知工科大学)の枠を超えて、関係者も講義・演習に加わりながら、オムニバス形式で講義・演習をサマースクール形式(5日間の集中講義)で実施しました。データ農業の実現に必要な、ICT、IoT、AI等の情報科学の基礎的知識の座学や各種の情報科学実習を経験することでデータ農業に対する実践的な応用力を養います。

高知大学の学生には工学に関して、高知工科大学の学生には農業に触れてもらい、就業人口、就労人口が減少する農業分野で、農業✕情報科学により、新しい農業データの価値を見つけてもらいたい。異分野の融合によって、新しい情報科学を標榜して取り組める場に合同講義がなってほしい狙いがあります。


講義や実習について教えてください

自分で作った環境装置で、測定した環境データを可視化

集中講義は、2月11日~15日の5日間行いました。昨年8月に実施予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点により、スケジュールを変更しての実施となりました。残念ながら2月も感染状況が改善せず、高知工科大生は対面授業でしたが、高知大学生はオンラインでの授業参加となりました。

授業は、プロジェクトの概要紹介、IoP研究ハウス(高知工科大学)の見学、各種プログラミング言語の学習、プログラミング実習に加え、画像センシングやAIによる機械学習などを集中的に学びました。また、小型コンピューターのラズベリーパイを用いた実習や各種環境センサーを用いた環境計測実習を行ったあと、最終日には、グループ毎の報告や、質疑応答・意見の交換を行い、5日間の全プログラムを終えました。



■受講生
高知大学生   学部生 9名
高知工科大学生 学部生 9名 ティーチング・アシスタント 5名


■講師
高知大学
農林海洋科学部  森 牧人教授
IoP共創センター 宮澤 譲治特任助教

高知工科大学
情報学群 福本 昌弘教授
     吉田 真一教授
     栗原 徹教授

合同会社Office asoT
松本貴也氏
和田英爵氏


■授業
1日目(2月11日)
IoPの概要説明・高知工科大学IoP研究ハウスの見学・インターネットとTCP/IP・IoTのセキュリティ・LANケーブル作成

2日目(2月12日)
ラズペリーパイの組み立て・ラズペリーパイへのセンサー接続

3日目(2月13日)
ラズペリーパイ温室内の測定

4日目(2月14日)
ラズペリーパイの現場計測・講義(人工知能(AI)と機械学習・画像センシング~画像情報の認識と計算~)
画像処理機能のラズベリーパイへの実装

5日目(2月15日)
環境計測(各種センサーによる計測実習・データの分析・可視化)
報告会


報告会ではどのようなことが発表されましたか?

グループごとに計測したデータ分析の発表がありました

グループごとに自分たちで作った測定装置を使って計測したデータ分析の発表がありました。学生には、分析のテーマ、何を明らかにするのか、何についてデータを集めて、どのように分析したか、そこから何を考察したかなどを報告してもらいました。測定装置を設置する場所や高さもグループごとに違いがあり、記録された気温、相対湿度、露点、日射量、CO2濃度などのデータから作成したグラフから、正の相関や負の相関を読み取り、予測と測定後の違いから検証が行われました。その結果、グループごとに様々な視点の考察が挙がりました。

「制作したセンサーに誤差があり、条件を合わせたセンサーを2つ以上用いて計測すべきだった」
「日射量が低いところだと光合成が進みにくく生産効率が悪い」
「CO2濃度は、ヒトの目で確認できないので、データを見える化することは重要」
「温度湿度で生育量の差が見られず、光合成量の違いなど温度湿度以外のデータも必要」
「ハウス内全体の温度や湿度が均一になるシステムの開発が求められる」


今後について教えて下さい。

IoPを推進できる人材育成の実践的な学びの場に

農学と工学の関係性や関連について知見を深める講義になったと思います。
受講生のアンケートを見ると、高知大学生からは「人工知能に興味があったため、高知工科大学の先生による詳しい授業を聞くことが出来た」「インターネットの暗号化の仕組みを知ることができた」「データの解析と抽出を学びそこから短時間で考察し、発表することができ、大きな力になった」など環境制御や情報科学について詳しく学べたと感想がありました。また、高知工科大学生からは「農業の生物的な面からの意見も聞けてとても楽しかった」「農家さんが実際にシステムを使用している様子が想像できなかったためハウスの見学ができて良かった」「IoPについて、現在の農業の抱える課題や今後の展望などを詳しく知れてよかった」「高知大学側の植物に関する知識に知らないものがあり役に立った」など農業や植物についての知見を深めることが出来たとの感想が多くあり、互いの学校で学んでいる農業と工学が交差する5日間だったと感じられました。
今後益々、データ農業の世界には、環境データを有効活用できる人材が必要です。ただ、測定する環境データだけでは植物の生育状態がわからないため、植物の状態を可視化することが大切だとわかったと思います。そのためにも、IoP(植物のインターネット)を推進できる人材育成のために農業と情報科学の両方に触れる講義として実践的な学びの場になれると嬉しいです。