活用事例

Vol.22

辛みのない、画期的なシシトウを育種

高知県環境農業推進課
高知県農業技術センター 作物園芸課

鍋島怜和さん 石井敬子さん 尾崎耕さん

鍋島怜和さん:高知県環境農業推進課(写真右)
石井敬子さん:高知県農業技術センター 作物園芸課 チーフ 園芸育種担当
尾崎耕さん:高知県農業技術センター 作物園芸課 研究員(写真左)

研究者

なぜ、辛みのないシシトウ作りを研究?

ときに感じる辛みが、家庭で敬遠されているから。

高知県はシシトウ生産量が日本一です。業務用としては大きな消費があるものの、家庭需要についてはそれほどでもありません。なぜ、シシトウが家庭で敬遠されるのか? その大きな理由が、たまに感じる唐辛子のような辛みです。農業技術センターには小学生が社会科見学に来ることがあります。そのとき、「シシトウを知っていますか?」と尋ねると、知らない子どもがけっこう多い。ときに辛いものがあるので、家庭料理の食材としてあまり使われていないようなのです。日本一の生産量を誇るのに、もったいないなと思いました。また、市場からは「辛いシシトウが出ると、消費者からクレームが入る」、生産者からは「辛くないシシトウなら家庭消費が伸びるはず」などの理由により、辛くないシシトウを作ってほしいという声がよく聞かれます。
こうした背景から、辛みのないシシトウを開発しようと考えました。


辛くないシシトウをどうやって作る?

辛みの遺伝子を持たないシシトウを目指し、繰り返し交配。

シシトウの辛みというのは、ある1つの遺伝子が関係しています。ピーマンやパプリカは、シシトウと同じくナス科トウガラシ属ですが、まったく辛みがないのはこの遺伝子を持っていないからです。育種の方向性は、異なる2つの系統を交配して作る「F1」という一代雑種です。辛みの遺伝子は優性遺伝なので、どちらかの片親が辛い遺伝子を持っていると、その子どもであるF1も辛みのあるシシトウになってしまいます。このため、まったく辛みのないシシトウにするには、この遺伝子をなくさなければなりません。そうすることにより、ピーマンやパプリカのような辛みがゼロのシシトウを作り出すことができます。そこで繰り返し交配して辛みのないものを選抜し、まったく辛くないシシトウへと近づけていきました。


辛みのないシシトウとIoPの関係は?

辛みの解消で、これまでにない高付加価値をプラス。

この辛みのないシシトウ作りは、高知県が推進するIoPの一環として研究を進めています。
IoPにはクラウド「SAWACHI」に膨大なデータを収集する、AIなどを利用して新しい生産システムを構築する、といったことに加えて、栄養成分や機能性成分を強化した「高付加価値化」という研究課題もあります。
今回の辛みのないシシトウの開発というのは、この高付加価値化に当たります。ときに出てしまう辛みをなくすことで、シシトウにこれまでにない新たな価値を加えようというわけです。
辛みのないシシトウの研究については高知大学・高知県立大学と共同で進めており、成分や風味などを科学的に調査・分析してもらっています。


いま研究はどういう段階?

すでに辛みはゼロ。風味や形、収量などの最終確認を。

この研究を本格的に開始したのは2012年。交配のたびに官能評価をひたすら行ってきて、現在、「高育交15号」「高育交16号」という2系統にまで絞ることができました。
ただし、辛くなければそれでいいわけではありません。辛みの遺伝子をなくすのに加えて、あくまでもシシトウの風味を残す必要があります。さらに、見た目についても、シシトウらしいものでなければなりません。農家さんに栽培してもらうには、収量がどれくらい見込めるのか、ということも非常に重要です。いまは、こうした大切な要素を確認しているところです。
まだ完成ではありませんが、食べた人がみな「これはシシトウだね」と言ってくれるところまで研究が進んでいます。育種なので長い時間がかかっていますが、高知県の農業のためになる、と考えて取り組んでいます。