活用事例

Vol.21

養液栽培でキュウリの早進多収化を探る

高知県農業技術センター 作物園芸課

山﨑浩実さん 穂﨑健昌さん

山﨑浩実さん:先端生産システム担当 チーフ
穂﨑健昌さん:先端生産システム担当 主任研究員(写真)

研究者

キュウリでどういう研究をしていますか?

通常よりも早く植えて、収量アップを目指す。

キュウリの早進多収生産、つまり通常よりも早く植えて収量をより増やす、新しい生産技術の研究をしています。キュウリの単価が高くなるのは、9月〜2月頃。一般的に高知県の施設栽培では、キュウリは10月頃に植えられていますが、この栽培方法では年内にあまり収穫できないというデメリットがあります。もう少し早く植えると、年内により多くの収量を上げられるのではないかと考え、研究に取り組みました。キュウリは通常、土で栽培しますが、この研究では養液栽培による生産技術の確立を目指した点がポイントとなります。


なぜ養液栽培にチャレンジしたのですか?

土耕と比べて、時間のロスなく植え替えが可能だから。

養液栽培では土壌消毒や土作りの期間が必要ないので、前作を片付けたらすぐに次の栽培に移ることができ、土耕に比べてより長い期間収穫することができます。けれどもキュウリの場合、長い間栽培すると途中でしおれて、収穫できなくなるツルが多くなることから、これまでほとんど行われていないのが現状です。この問題を解消するため、通常よりも早い8月、9月に植え付けて、そのまま12月まで栽培。そして、いったん栽培を打ち切って新たな株に植え替え、翌年6月、7月頃まで栽培する試験を行いました。こうして年2作にすると、ツルが萎れることがほとんどなく、1作目は通常よりも植え付けが早いので成長も早く、年内により多くの収量を上げることができます。さらに、ほぼ周年の栽培になるので、年間通して雇用ができ、より安定した大規模経営が可能になります。


早進多収化を成功させるための工夫は?

主枝を摘心し、ツルの伸びを抑える「更新」がポイント。

キュウリは生育の早い作物で、8月植えの場合、ツルが1週間で1mも伸びることがあり、伸びたツルを倒れないように下におろす「つるおろし」という作業が必要になります。また、光の弱い時期には、着果が安定しないという問題も発生します。そこで、ツルの先を摘心して側芽を伸ばす「更新」を栽培に取り入れました。この方法によって、つるおろしの労力が減ったうえ、ツルに向かう栄養が実のほうに回ることや、日当たりの良い位置で雌花が開花・肥大することになるので、着果を安定させることにも成功しました。こうした技術を組み合わせた養液栽培による早進多収生産技術は、3年間の研究によって、通常の栽培方法よりも省力的で収量がアップすることが明らかになりました。


ほかにはどのような研究をしていますか?

光合成の「見える化」に関する研究も行っています。

光合成の「見える化」や、葉の大きさなどの生体情報の自動取得技術の開発に取り組んでいます。研究が先行しているナスとニラでは、環境測定装置とカメラ画像によって、光合成の推測値がわかるAIエンジンや、ナスの開花数・着果数の自動取得技術などが開発されています。キュウリにおいても、個葉の光合成能力の測定や、チャンバーを用いた株全体の光合成量の計測、カメラ画像による葉面積の解析等により、植物生理の基本となる光合成の「見える化」を進めています。さらに、生育状態の把握や収量予測など、現場でより役立つ技術開発に向け、研究を続けていきます。