活用事例

Vol.23

害虫のアザミウマをAIが判別する技術を開発

高知県農業技術センター 生産環境課

下村文那さん 山脇美樹さん

写真左から
下村文那さん:昆虫担当 主任研究員
山脇美樹さん:昆虫担当 研究員

研究者

なぜ、アザミウマの防除にAIを使うのですか?

とても小さな虫。人間の目で種類を判別するのは難しいから。

様々な農作物に被害をもたらすアザミウマという害虫を対象に、画像によって種類を判別する技術開発に取り組んでいます。高知県で発生する主なアザミウマは7種類あり、被害の発生程度や、防除効果の高い殺虫剤がそれぞれ異なります。このため、圃場で発生したら、体の大きさや色などの特徴から種類を見極めることが重要です。しかし、どのアザミウマも非常に小さく、最も小型のものは体長1mmにも満たないため、経験の浅い新規就農者や、小さなものを見るのが苦手な高齢の農家さんは、アザミウマの判別が難しい場合があります。そこで、人間の目ではなく、AIを使ってアザミウマの種類を見分けることができないかと考えました。


どのように研究を進めましたか?

粘着シートで捕獲し、画像化。

まず、アザミウマが発生したハウス内に粘着シートを吊り下げ、しばらくたってからこれを農業技術センターに持ち帰り、シートに付着したアザミウマを画像化して、種類を明らかにしたうえでAIに教え込ませていきます。手作業なので、とても労力がかかって大変でした。どういったデータを蓄積していけば、AIがアザミウマの種類を判別するのに有効なのか。AIは画像に示されたアザミウマのどこに注目しているのか。これらのことについて、試行錯誤しながら、2年間、研究を進めてきました。


研究のなかでも重要なポイントは?

膨大な画像データをAIに与えて学習を。

研究において特に重要なのはAIの開発で、車の自動運転等で使われている技術を応用しました。このAIは自動運転で必要とされるような人や車、看板などは認識しますが、当然、アザミウマについては何も知りません。私たちがアザミウマの情報をどんどん追加することで、AIを育てていきました。同じような画像を読み込ませても、学習はなかなか進みません。研究を進めていくうちに、どういったデータが有効なのかという傾向がつかめるようになり、少しずつ賢くしていくことができました。6000を超えるアザミウマの画像を効果的に学習させた結果、いまでは検証用データに対して80%以上の精度で種類を判別できるようになっています。


この研究はこれからどう進めていきますか?

農家さんが現場で使えるように、実装形式の検討へ。

これまでの2年間の研究で、AIを開発するところまで進みました。今後、AIの開発を引き続き行い、さらに学習を増やして判別の精度を高めていきます。さらに次年度以降は、農家さんや普及指導員にどう使ってもらうのがいいのか、実装形式のあり方を検討する段階に入ります。具体的な検討はこれからですが、圃場で農家さんに粘着シートを吊り下げてもらい、それを出荷場や普及指導センターに持ってきてもらって、画像を収集してAIが判別する、といった仕組みなどを想定しています。アザミウマは高知県の農業における代表的な害虫です。県内ではまだ例のない、このAI判別システムを完成させて、効率的な防除に貢献したいと考えています。