活用事例

Vol.06

環境測定機器のデータを活用し、施設の自動制御システムの開発を業務としている有限会社イチカワ様。高知県の施設園芸の農家さんと共に、現場の作業を省力化するために環境データを利用した自動化に取組まれてきました。IoPクラウドで利用可能となる製品について、開発の経緯やこだわりを伺いました。

データの「見える化」と自動制御をつなぐ

有限会社イチカワ

宮﨑浩平さん 宮﨑航さん

写真右から
宮﨑浩平さん(代表取締役)
宮﨑航さん(専務取締役)

企業

IoPプロジェクトに取り組まれたきっかけを教えてください。

私たちが農家さんから預かってきたノウハウを、プロジェクトで役立てたいと思いました。

当社はもともとビニールハウスの天窓装置や制御機器を作っている会社ですが、農家さん主体で毎月開かれていた香南市の研究会に参加したことがきっかけで、植物生理と環境制御の関係に関心を持つようになり、高知県農業技術センターと共同で統合環境制御装置の開発を始めました。開発にあたっては、進化する栽培技術に柔軟に対応できるように、自由度と拡張性を重視し、地元のベテランの農家さんにもテスターを引き受けていただき、農家さんが長年培ってきた経験を基に、要望や意見などを細かくプログラムに反映することで、当社独自のシステムを構築することができました。今回のIoPプロジェクトにおきましては、農家さんにとっての「見える化」とは何か?また、将来必要とされるであろう制御機器との連携において、当社の技術や経験がお役に立てたらと思い、参加させていただいております。


loPプロジェクトで取り組まれていることを教えてください。

多彩な用途にマルチに対応できるクラウド対応型の計測ユニットの開発に取り組んでいます。

現在の環境測定装置の多くは地上部の環境情報がメインとなっています。しかし、農家さんの栽培管理においては、「作物の状態」を見ることも大切で、今後IoPクラウドを活用して管理の最適化を図るためには、地下部の情報や生体情報、機器の稼働状況といった「密度の濃い可視化」が重要であり、同時にこれらの計測結果と連動してコントロールを行うサービスなども視野に入れていく必要があると感じています。
そこで、現在はすでに実績のある統合環境制御システム「アネシスQ2600」で使用する自由度と拡張性のある計測部のA/Dコンバーターを応用することで、多彩な用途にマルチに対応できるクラウド対応型の計測ユニットの開発を進めています。


アネシスQ2600の特徴や、こだわりについて教えてください。

自由度と拡張性に特化し、農家さんの手間を省く制御技術を導入しています。

当社が開発した「アネシスQ2600」には、篤農家さんから寄せられた要望や意見が多く反映されており、温度、湿度、炭酸ガスをはじめ、日射(雲量)、風向風速、外気温度などの外気象や、植物の状態や地下部の環境情報といった様々なデータの計測が可能となっています。しかしながら、農家さんがこれらの計測データを管理に生かすためには、制御機器の設定などを手動で行う必要があり、手間が生じてしまいます。「アネシスQ2600」では独自に開発した補正技術を先行的に導入しております。例えば、湿度や雲量(曇り度合い)から設定温度を自動的に補正する仕組みや、360°方向からの風力を換気窓から入ってくる風速に変換して天窓の開度を自動調節するなどの独自のプログラムによって、これまで農家さんが手動で行っていた設定や操作の手間を省くことが可能となり、栽培に集中できる時間を増やすといったこだわりを持っています。


IoPプロジェクトにおいてどのような影響がありますか?

高知県農業の活性化に貢献でき、3つの波及効果があると考えています。

今後のIoPプロジェクトにおきましてはメーカー各社と連携してIoPクラウドの個人データベースを共有し、密度の濃いデータ収集が可能になると考えています。例えば、日射量一つにしても、地上部のデータだけでなく、大気外日射量と比較した雲量(曇り度合い)のデータなども加われば密度の濃い環境データとなり、栽培管理に広がりが生まれ、最適な栽培モデルを的確に示すことが可能になっていくでしょう。ベテランの農家さんが培ってきた経験とカンをシステムの補正値に割り当てることで、新規就農者さんの失敗を少しでも減らし、安心して参入できる環境をご提供できたらと思っています。

◆期待できる3つの波及効果
①密度の濃いデータの可視化により、参照できるデータ領域が広がる。
最適な栽培モデルを的確に示すことが可能となり、高収量・高品質による所得向上をもたらし、農業の活性化に繋がる。

②ヒューマンエラーの防止
新規就農者でも栽培モデルを活用することで、失敗の少ない安定した所得を得る。

③栽培、生産管理の最適化が自動化
生産者は栽培に専念することができ、技術の向上にも繋がる。


今後の目標や見通しを教えてください

テストや実証試験を行いながら、製品のブラッシュアップを行います。

現時点で計測ユニットの基盤の制作は完成しておりますので、年明けから通信テスト及び圃場での実証試験を行う見込みです。一方で、製品の自由度と拡張性を高めた結果、多様なセンサーを搭載することができるため、ここから発信される情報などをクラウド上にアップするための調整が今後の課題です。
先の話にはなりますが、IoPクラウドから得られた情報を制御にフィードバックするシステムや、収量時期に合わせてコントロール可能な機能なども、今後は開発ラインにのせていきたいと考えています。


編集後記:高知県 農業イノベーション推進課 IoP推進室

今回は、有限会社イチカワ様の機器等高度化支援事業*でのお取り組みを取材させていただきました。

今後の環境制御技術の発展を見据え、地下部の情報や機器の稼働状況等を含めた「密度の濃い可視化」、またそれらを基にしたより精度の高い制御に向けて取り組まれており、今後ますますのIoPクラウドとの連携の深化が期待されます。
高知県が目指しているデータ連携基盤(IoPクラウド)の進化と活用の促進に向けて引き続き連携させていただければと考えております。

*高知県施設園芸関連機器等高度化緊急支援事業 新型コロナウイルス感染症により、県の施設園芸が大きな影響を受けている状況を鑑み、 施設園芸関連機器等の高度化を促進し、県の施設園芸の更なる発展につなげる取組に必要となる経費の一部支援を目的とする事業。
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/160601/2021041200264.html