令和5年度IoPプロジェクト国際シンポジウム~持続可能な施設園芸に向けたIoPの挑戦~が開催されました

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2024年1月28日高知大学朝倉キャンパスにおいて、国内外の研究者を招き持続可能な園芸についての講演や議論が行われました。シンポジウムは、会場とオンラインを通じて9カ国から出席をいただき、トータルで200名以上の方に視聴されました。

シンポジウムの開催にあたり、冒頭に高知県知事から開催挨拶がありました。

「データ連携基盤IoPクラウド「SAWACHI」は、令和4年9月に運用開始、1,000戸を超える農家が利用しています。集まるデータを最大限活用し、営農支援体制を強化しています。研究分野では、高知大学が光合成などから収穫量、収穫時期などを予測するAIを開発、IoP農業研究会が実用化を検討中です。また、高知大学IoP共創センターが研究したAIを用いたサービスの開発や販売を目的とする大学初のベンチャー企業「高知IoPプラス」を設立。産業分野では、プロジェクトの参画企業が75社に拡大し、ITやものづくり企業等のみなさんと、クラウドに接続できる機器の開発やクラウドを活用したビジネス実証に取り組んでいます。」


続いて、高知大学の桜井学長から挨拶がありました。

「大学として絶対にIoPプロジェクトを成功させる思いで取り組みました。1番のターニングポイントは、農協が同意し参加したことです。当初JAから「IoPで農業が高度化しても、トップ農家しか使えないなら、賛同できない。おばあちゃん1人の農家まで還元されるのか」それに対し「トップだけでなく、あらゆる層の農家に利益はある。農業の新しいやり方を考えています」と答えました。その結果、協力体制は良好になり、賛同する農家が格段に増えました。IoPがGXを救う未来を期待しています。高知だけでなく世界を救わないと全面協力の意味がありません」


基調講演 Wageningen University & ResearchのRick氏

「先端の設備を使用し、植物の病気や生育状態などのデータを取り、高い収量、質の高い植物の生育を目指しています。あらゆる情報を集め、遺伝子型の測定などを行い様々な生育環境のモデルを作成。植物の生育状況を反映した仮想システムにより収量や病害の予測、データを利用して施設の管理をします。将来は、AIやモデルの予測により農家がシミュレーションできます。NPECは、国際的な研究をしており、様々なチームが一緒にデジタルツインのプロジェクトを進めています。ここ10年で開発したものを全ての人に使ってもらい、知識を広げるために一緒に取り組みたいです」


次いで、国内の研究者3名による特別講演が行われました。

●物質閉鎖系である地球におけるカーボンニュートラルと我が国の戦略

 早稲田大学先進理工学研究科教授・研究戦略センター長 関根泰

「現在、燃料で使用する石炭、都市ガス、LPガス、ガソリンや灯軽油などは化石資源に依存しています。2050年に向けて電力の一部は、化石燃料から電気または再エネ電気、あるいは水素、アンモニア、合成メタン、合成燃料などへ変わり、産業の大転換がグリーントランスフォーメーションによって進みます。これからの再エネ、カーボンニュートラル時代は、CO2、N2O、メタンのエミッションを減らし、再エネがない時間をどう耐えるかがポイントです。アンモニアや有機ハイドライド、水素の一部、合成燃料の一部がキャリアとして期待されています。世界中で化石燃料に代わるものを適材適所で使うことが大事です」


●持続可能な窒素の利用に向けた国内外の取り組み

 総合地球環境学研究所教授 林健太郎

「窒素の問題は、化石燃料を使う際に、空気や化石燃料に含まれる窒素から窒素酸化物ができることです。我々が活動する上で、エネルギーの利用、生産、消費から非常に漏れやすく、大半の反応性窒素が環境に出ます。これに対して、排ガスや排水の処理技術により、窒素を無害化しますが、それでも大気に残り土壌や水域に流出し、環境汚染に繋がります。この解決には、食品ロスを減らすことで無駄をなくすなど行動変容を伴う管理が必要です。国連環境計画が国際窒素管理を進めようとしています。我々も日本のため、世界のためにコミットする価値があります」


●サーキュラーエコノミーに関する世界の動向と農業分野の重要性     

 京都大学大学院工学研究科 高岡正輝

「IoPプロジェクトや農研機構のWAGRIは、気象、農地、収量予測、農産物の生産など販売に役立つビッグデータを扱うプラットフォーム。今後は、農業残渣量や再生可能な資源、持続可能性、リサイクルなどの循環性に関する情報も収集し可視化すべきです。資源及び製品の価値を最大化する、資源の投入量及び消費量を削減する、廃棄物の発生を最小限に抑える、こうした経済活動がサーキュラーエコノミーになります。また、農業セクターと廃棄物資源循環のセクター間で再生可能なフロー管理をより強化すべきです。農業廃棄物及び持続可能性に関するデータは、生産情報のプラットフォームに追加できると大変良いと思います」


特別講演のあと、2つ講演が行われました。

●高知県における環境保全型農業のこれまでとこれから 

 高知県農業振興部IoP推進監 岡林俊宏

「高知の施設園芸は、1998年頃から環境保全型農業が浸透しましたが、温室効果ガス削減に対するデータはありませんでした。2009年に300を超える農家へ、加温機の重油使用量を主に化学肥料の使用量、プラスチック資材の廃棄物等を調査。その結果、冬の夜間の加温機によるCO2の排出量削減が課題となり、重油の代替えに着目。省エネ対策としてバイオマスボイラーやヒートポンプを導入し、重油の使用量は2000年前後と比べ現在は半分に。今後は、太陽光発電設備や蓄電池、LPGエンジンにも取り組みます。農家が、燃料や電気量、肥料の量、残渣の処理方法、有機物の量をSAWACHIに入力すると試算が出来るようにしたいです」


●IoPプロジェクト展開枠におけるGX研究

 京都大学大学院地域環境学堂地球益学廊水環境保全論分野 藤原拓

「展開枠では、持続可能な施設園芸への転換に取り組みます。グローバル化を進める地産外商の促進、主要7品目に加え多品目の展開。IoPクラウドの地域防災、ヘルスケアなどの新分野への活用。IoPを通じて施設園芸のグリーントランスフォーメーションを進めます。エネルギーや水、肥料などの利用効率をさらに高める技術とシステムを開発し、GX を可能にします。投入情報から温室効果ガスの排出量や窒素の利用効率、肥料の吸収量、農家の収益などを見える化することで、収益当たりに投入されたエネルギーや排出されたCO2が分かります。 「脱炭素をいかに進めるか」「窒素の利用効率をいかに高めるか」「捨てられるものを価値あるものへ循環利用する」この3つが重要です」


●パネルディスカッション

持続可能な施設園芸に向けてIoPはどうあるべきかの質問に「環境制御機器のニーズが増えると増産によりコストが下がる。専門分野のニーズが高まれば、研究者も増えてWINWINになる」「SAWACHIは、現在2,000を超える農家が参加する国内でも大きなデジタル情報プラットフォーム。日本の中ではデファクト・スタンダードを目指せる」「サステナブルを消費者に応援してもらう仕組みが無い。当たり前にやる仕掛けを県とJAグループがしなければならない」と応えていました。


総評は、Jos Verstegen氏が行いました。

「様々な情報やエコシステムがSAWACHIを中心に出来上がっていると感じました。4年前、初めて参加した時にJAと農家が協力をするべきだと話しましたが、現在では、ワーゲニンゲン大学よりも上手くやっています。お互いから多くのことを学び合えると感じました。私たちが直面する地球温暖化についても、解決策についての話が出ました。今後5年間のためにも良い議論ができたと思います」


閉会の挨拶は、事業責任者の高知大学理事の受田浩之が行いました。

「IoPプロジェクトの取組が高知県から、北海道、九州福岡との連携が広がり、海外はベトナム日越大学、インドハリヤナ州との連携も確実に進展しています。この国際シンポジウムを通じてさらに世界の広がりが期待できます。プロジェクトの成功には、競争優位性とチーム力が必要です。シンポジウムを通じて人の輪の繋がりも実感しました。来年に向けてプロジェクトが大いに成果を挙げて、皆さんにいろいろな報告をしたいです」