令和5年度高知県Next次世代型施設園芸農業セミナーが開催されました

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2024年2月1日に高知城ホールにて、高知県Next次世代型施設園芸農業セミナーが行われました。会場とオンラインを合わせて28県から84名が参加されました。

最初に、高知県農業振興部部長杉村充孝より開会の挨拶がありました。

「IoPプロジェクトは、高知の施設園芸農業の飛躍的発展と関連産業の集積を目指す取組です。IoPクラウドのSAWACHIが運用を開始し、蓄積データを生産現場で活用するデータ駆動型農業が広がっています。本セミナーを通じて全国の自治体とデータの活用方法や課題を共有し、さらなる連携とネットワーク構築の機会になることを期待します」


●農林水産省の取り組みの紹介

 農林水産省大臣官房政策課技術政策室 課長補佐 木村晃太郎

「農林水産省では、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するみどりの食料システム戦略を策定。2050年までに化石燃料を使用しない施設への移行を目標に掲げ、化石燃料に依存しないハイブリッド型施設園芸設備の導入支援や環境制御技術等を活用した適温管理による省エネ化を促進しています。スマート農業は、ロボットの自動運転による農作業の自動化、情報共有の簡易化、データを活用した高度な営農を可能にします。また生産から加工・流通・販売・消費までの情報を連携させ、生産の高度化や商品の付加価値向上、流通を最適化する農業者向けサービスの開発が重要です。担い手が不足する中、生産水準を維持するために、スマート農業技術は欠かせません」


●高知県の取り組みの紹介 「データ駆動型農業への取り組み」

  高知県農業振興部 IoP推進監 岡林俊宏

「高知県のデータ駆動型農業の普及率は現在約6割。データ駆動型農業を始めるにあたり、データを集めますが、何でも良い訳ではなく、目的を持って使うことが重要。当初は、月に1回、養液分析し測った数字をそのまま農家に返していました。それでは、何も分かりません。診断を加えることで、改善点が見えます。目的を持ってデータを扱うことで、栽培管理の改善に繋がる。また、データの見方をきちんと農家に教えると、自分で課題が分かります。データ駆動型農業の普及としてのポイントは、データを見て指導できる指導員の養成。そして、農水省や県で環境制御機器を補助事業で支援し、県とJA、生産者、大学や企業が一体で取り組んでいることです」


講演 Next次世代型のデータ活用への試み

 高知県農業技術センター農業情報研究室 主任研究員 五藤雄大

「IoPプロジェクトの始動した当時、私は栽培担当でデータ分析やAIは使えませんでした。高知大学への調査データの提供時に「緻密に調べてあるが、このデータは使えません」と言われ、レベルの違いを痛感。そこから、スキルアップの日々でした。テーブルやデータベースを学んだ後、ピボットテーブル、グラフ、パワークエリなどのスキルを修得。さらにPythonを学ぶことで、SAWACHIのビッグデータの活用ができました。開発したものを使用してもらい評価や意見をもらうことが大事です。農家の中には、意見をためらう方や忙しいと遠慮する方もいますが、意見から発想が生まれ新しい開発に繋がります」


講演 Next次世代型のデータ活用への試み

 IoP農業研究会副会長/キュウリ生産農家 越智史雄

「10年前に東京から高知へ移住し、キュウリの栽培をしています。その頃から、データ駆動型農業の普及が進み、当時は高収量の農家さんの栽培環境を真似るアプローチでした。現在は、天気や温度などの環境情報や作物の生理生態、燃油の使用量など細かく確認できます。朝のルーティーンはSAWACHIでデータを確認して、一日のプランや2~3日の動向を考えます。IoPの難しい所は、ジョイントベンチャーのように、大学や県、企業、生産者など様々な人が絡んでいる所です。大切なことは、そこにいる人達の意識。プロジェクトのリーダーシップ、ガバナンス、チャレンジする精神、この3つがないと絶対に成功しません」

質疑応答では、リモートを含めた参加者より、データや営農指導の仕方など様々な質問が寄せられました。


●基調講演  営農支援におけるデータ保護:安全な情報管理のためのポイント 

 iCraft法律事務所 弁護士 内田誠

「データは個人に紐づかない形にすれば非個人情報で扱う場合もある。しかし、出荷データは農家の売上や収益に連動するため、基本的には個人データです。また、個人情報の第三者提供は、個人情報保護法の規制のクリアが必要、利用目的の範囲内でなけれ利用はできません。高知県のスキームは、個人情報の問題をクリアし、農家が安心してデータ提供できる環境を築けるようにIoPクラウドの推進発展や産業の発展などを利用目的として県と農家の間で契約。更に、第三者提供に関しては、高知県の産業の発展にデータを利用することを県が確認、審査して認めた企業や大学へ提供しています。提供側にも、高知県の産業発展のみに使用する契約をしているので、農家も安心です」

内田弁護士の講演をうけ、今回整備した仕組みの価値について質問が及ぶと高知県農業振興部の岡林IoP推進監は、「このスキームは、集めたデータを「県とJAで営農改善に使う」「高知の産業の発展のために使う」また「その目的の範囲内なら第三者への提供もする」という他の県にも共有できる内容です。各県の目線でカスタマイズしていくと様々な展開が期待できます」と他県への展開に意欲を表しました。

最後に、高知県農業振興部の岡林IoP推進監による閉会の挨拶がありました。

「私たちの取組は、農業のピラミッドの一番上の農家だけでなく、生産が十分でない農家のステップアップや底上げを目指しています。中間から上の層に浸透する一方で、デジタルが入ると関係ないと敬遠する農家が多い。そういう方に情報が届くまで落とし込みたい。高知の悩みは、全国の自治体でも同じ、皆さんと情報交換して成長と失敗を共有し、全国の農業を盛り上げたい。最終的には生産だけでなく流通販売も含めて消費者に応援いただける仕組みになればうれしい」