令和4年度IoP国際シンポジウム「農業DXの現状と未来」(詳細版)

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2023年2月20日、令和4年度IoPプロジェクト国際シンポジウム「農業DXの現状と未来」が東京都千代田区JA共済ビルカンファレンスホールにて開催されました。

冒頭、櫻井学長は「このプロジェクトは、内閣府・地方大学・地域産業創生交付金を5年間受け、教育や人材育成、研究などを成し遂げると宣言して進めてきました。高知県、高知大学、県立大学、工科大学等、さらにJAの皆さんの参加協力がプロジェクトの肝です」と挨拶がありました。

まず、IoP共創センター長の北野氏の講演では「今後IoPにより農家さんの利便性を追求し、多様な営農支援情報が提供される。また、国内外の多様な地域にも普及し情報の共有化が進むに従って、IoPを介したSociety5.0型農業が食糧生産の未来の可能性を切り開くことを期待している」と述べました。続く、「IoPにおける生理生態に関する研究成果について」の講演では、「民間企業から来ていただいた岩尾先生らのおかげでKPIの達成やAIの開発を進めることができた。常に現場で農家が使えなければ意味がないという姿勢でエンジニアリングをしていただいています。」と北野氏から紹介があり、「研究成果を国際的なトップジャーナルにもたくさん投稿しており、IoPに興味を示した大学、他県の県庁等からも一緒に取り組みたいオファーをいただき、東北大学と北海道のワイナリーで準備を進めています」と締めくくった。

高知工科大学情報学群の福本氏は、「ニラのそぐりをする機械の開発では、完璧なものより7割の精度で良いので安くて実用的な機械が求められた。我々工学分野の者にはない考え方で勉強になりました。」と研究でのエピソードを語り、「IoPクラウドができて情報の一元化が進み、安心・安全に使うことができている。今は研究段階だが、今後は地域等で使い勝手の良い小回りのきく階層的な構造にできるよう進めている」と語りました。

京都大学大学院工学科教授藤原氏は循環型農業の研究について「土耕栽培、養液栽培において循環型の施設園芸を目指す取組を進めてきた。生姜の茎や葉を加熱後、水とクエン酸で2段階に抽出することで、作物が吸収した肥料成分であるカリウムとマンガンを別々に回収できる技術の開発に成功。ナスの養液栽培では排出される廃液を活用して海藻を栽培・販売し、作物と海藻の両方から収入を増やす資源の循環システムをつくる研究を行っている。マイナスからプラスを生み出すような取組をしている」と発表がありました。

続いて高知県立大学の渡邉氏は、高知からリモート参加となりました。野菜の機能性に
着目した施設園芸の高付加価値化について、高知県が日本一の生産量を誇るシシトウを例に「シシトウはβカロテン、ビタミンC、ナイアシンなどを含み、栄養素の宝庫ですが、たまたま辛味にあたったシシトウを食べて、嫌いになる消費者も少なくはありません。そこで辛味のないシシトウの開発に成功しました。」と語り、さらにピーマン、ニラ、ナス、ミョウガの機能性について研究した結果「骨格筋に存在する二分化の作用を促進させ、細胞数や大きさを増やすことで、スポーツの基本となる骨格筋を強固にすることができることがわかった。ニラを食べることで、高齢者の運動機能の維持に貢献するものと期待できる。」と締めくくりました。

高知県農業振興部IoP推進監の岡林氏からは、「2022年から稼働した「SAWACHI」を農家さんに使っていただき浸透してきたが、もっと広がってほしい」とし、「IoPクラウドに集まったデータを大学や企業が研究開発に活用することにより、施設園芸と関連産業の発展を実現する仕組みができた。自治体が中心となってデータを集めているからこそできる技です。来年度以降は全国展開していき、今後は世界へもつなぎたい」と述べました。

続いて高知大学地域連携担当副学長石塚氏は、冒頭で「IoP共創センターの合言葉は「共にみんなで新しいことをつくっていこう」です。産学官だけではなく、農家と一緒になって農業分野のsociety5.0の実現を目標としています。」と述べ、「教育分野での取組は、高知県内の3大学を中心に共同授業科目を設置し、大学院のプログラムも3大学連携で進む予定です。また、社会人向けにIoP塾のオンライン講座で進めており、YouTubeを使って15分の動画を配信しており、高校の授業でも活用され広報にもつながっています。」と語りました。

第1部最後の講演は、高知大学農林海洋科学部学部長の枝重氏より農林海洋科学部の改組について「高知大学は高知県の唯一の国立大学として、地元に人材を輩出する大きな使命があるものの、これまで十分な成果を上げられていなかった。その問題を解決するための改組です。1次産業のDX推進のために、データサイエンス教育やIoP事業の成果を教育に還元するための特別なプログラムを組み込んだ農学、農業科学の分野を横断して学べるように新たに農林支援学科をつくり、高知県への人材輩出を促進するための育成改革を行った」と述べ、国際シンポジウムの第1部は終了となりました。

午後の部の講演では、事業責任者の受田氏が「IoPプロジェクトの今後の展開」と題し、展開枠として認めていただいたプロジェクトの概要について、「NEXT次世代型施設園芸農業を多様な品目、環境に対応できるように深化をさせること。さらにIoPデータ連携基盤を省力化し環境への負荷を低減化すること。Society5.0型農業の確立により地方大学が光り輝いていく未来を目指し、地域産業の創生へとつなげるということです。」と計画の3つのポイントを紹介しました。

続いての招待講演ではまず、フラウンホーファーIESE実験ソフトウェアエンジニア研究所Jorg Dorr先生に事前に収録した映像による講演が行われました。

2人目の東京大学大学院農学生命化学研究科日越大学長期派遣専門科の安永エリコ氏による講演では、日越大学の概要や新しい農業に関する学部について紹介があり、「ベトナムの農業の課題は、未熟な生産技術、農業インフラの未整備、未熟なサプライチェーン、衛生・安全に対する意識の低さなどが挙げられ、解決すべき点が山積しています。今後、インフラの整備、DXの推進などについて施設園芸作物で実績のある高知大学IoP共創センターの協力により推進できるのではないかと考えています。スマート農業プログラムとの密接な連携により一緒に教育、研究活動を推進することに感謝します」と締めくくりました。

「農業DXの現状と未来」と題したパネルディスカッションでは、株式会社INDUSTRIAL-X代表の八子氏がファシリテーターとなり、IoPが進めてきた農業のデジタル化についての振り返りと未来への取組についての討議が行われ、パネリストがそれぞれ発表を行いました。

濱田高知県知事からは「SAWACHIの取組は、生理生態AIエンジンを世界で初めて開発し、今後さらなる収量アップ、品質向上につながるベースになると思います。また、データ駆動型の営農指導体制のツールになり、関連産業の拡大、機器のシステム、アプリケーションサービスの開発など地場の企業で協力し、このIoPを核として、関連産業の発展まで取り組みたい。」と語りました。

次に、農業・食品産業技術総合研究機構の村上氏からは、Society5.0の農業の実現に向けて進めている土壌メンテナンスの一部では、データを集めて分析し、それを行動につなげて農業機械などの最適な栽培管理をしています。高騰する肥料に対する可変施肥について、また開発中の害虫へのレーザー狙撃についても紹介。「いかに生産性と持続性をIoT、ICTロボティクスからAIでうまく折り合いをつけていくか研究開発を進めています。」と述べました。

3人目の全国農業協同組合中央会の山田氏は、農業DXをするためのデジタルのリテラシーの向上に向けたJAグループでの取組や人材育成について語られ、営農指導員としてスマホやタブレットをしっかり利活用して行政対応も円滑にできるようにしたいと語られました。

続いての尾﨑政務官は前高知県知事ということで、高知県のIoP発足当時からの深い愛情と情熱、産業全体にわたって日本全国にそれを広めていくのだという視座と共に、デジタル大臣政務官としてデジタル化の推進と各省庁の連携・発展について語られました。

パネリストからの発表が終わり、続くディスカッションでは3つテーマで討議が行われました。まず「IoPの取組が全国の農業現場にどこまで普及させることができるか、その可能性と貢献について」討議が行われ、濱田知事やIoP共創センターの北野氏から「データ提供はしないがアプリケーションとエンジンは非常に汎用性が高くどこでも使ってもらえるのではないか」という意見が出ました。また、JAグループの山田氏からは「導入コストやランニングコストが高く、人材不足やインフラ面での問題はあるものの、行政とも連携して農業サービスの事業体の育成、機械のシェアリングや共同利用、低コスト化やデータを有効活用する付加価値化などが考えられる」との意見も出ました。

2つ目の討議テーマ「施設園芸以外の産業分野に展開する可能性」については、濵田知事から「高知県では、先日水産業でマリンイノベーションと称したオープンデータシステムが稼働し、来年度早々には森林クラウドが動く予定です。さらには防災システムにも活用できるのではないかと思いますし、関連産業にも波及効果が見込める」との見解が語られました。また尾﨑政務官からは「政府全体として農業分野、1次産業関連分野全体を通してのデジタル化を目指していけるように取り組んでいくことが大事だ」との意見が出ました。また受田氏からは、「医療、あるいは防災の観点に構築しているプラットフォームを展開できるのではないか。データと機械で構成される”デジタルツイン”に、人間の活動や知恵を加えた”デジタルトリプレット”がその価値を高めていける現場が1次産業ではないかと思います。この原理を横展開やさらに1次産業同士の農・林・水のクロステックでの持続可能性と価値のシナジーを生み出すような展開をぜひ目指していきたい。」と話しました。

3つ目のテーマ「海外との共創優位性について」農研機構の村上氏は「先程の病害虫の予測技術は海外にも類似技術はあるが、きめ細かな部分では日本から発信できる誇れる技術だと思います」と答えました。北野センター長の「本日参加の日越大学の農業関係の学部にIoP化を進めていきたい」「高知県と高知大学がリードしてきたIoPの取組が地方大学としての役割としてどのような期待感があるか」の問いに濱田知事は「30の研究課題に取り組んでいただいているが、人材育成にも力を入れており、高知大学に新たに地域枠を設け農業の基礎から最先端の技術までIoPを本格的に学ぶことができる仕組みをつくりました。ゆくゆくは全国からIoPを学びたいという若者が集まり、高知県に定住していくことが県への貢献になる」と語りました。受田氏からは「未来を担っていく有為な人材に対して地域の大学としてより一層高度な農業のあり方を大学としても努力が必要」と意見があり、櫻井学長からは「ハウス農業の話ばかりになっているが、ハウス以外の農業の方が圧倒的に多いので、そこをどう救うのかにも目を向ける必要がある」と締めくくった。

次に、Wageningen大学のJos博士から総評のあとに、濵田高知県知事から閉会挨拶があり、今後の農業のDXのために、産学官民の連携をさらに深めていくことや研究開発、人材育成、大学改革を進めることの重要性が語られた後、国際シンポジウムは幕を閉じました。