第3回 IoP技術者コミュニティ講習会

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令和4年12月16日、第3回 IoP技術者コミュニティ講習会が高知県農業技術センターにて開催されました。 IoP技術者コミュニティでは、IoPプロジェクトが進めるIoPクラウドの取り組みを拡げるために、技術習得や製品連携による新たな価値に繋げる活動を行っています。 第3回目となる今回は、前回に引き続きIoPクラウドの開発管理を行っているプロンプト・Kのエンジニア陣が講師となり、午前の部として「IoPの構造」や「デジタルツイン」についてハンズオンで学んでいく座学。午後の部として「3DMAPとデジタルツイン」をテーマとしたグループセッションが開催されました。

SAWACHIの中身(データモデル)から学ぶIoPの仕組み

午前中に行われた座学では、SAWACHIのデータモデルを参考に、これらのシステムやサービスを支えている技術や仕組み、さらにその先にあるデジタルツインによる新たな展開について、ハンズオンによる学習が行われました。

・座学1

はじめに「SAWACHI」の機能と「時系列データ」の関係性について紹介がありました。「IoTは時系列データのやりとりです。これを単なるデータとして漠然と捉えてしまうとIoTは失敗しやすい。そのため時系列データを適切、効率的に扱える時系列データベースが絶対的に必要になります」

現在、SAWACHIはIoPクラウドとして、農業関係者向けにタイムリーなサービスをいくつか展開していますが、これらは、高知県の気象データや、ハウスから寄せられる環境データ、さらにはハウス画像といった様々な時系列データを高速で処理することで実現しているそうです。

SAWACHIでは高知県農業を5つにモデル化(生産者属性モデル、市況モデル、出荷モデル、気象モデル、圃場環境モデル)した情報を取り扱っており、集められた情報はSAWACHIに内蔵された※独自の時系列データベースにて管理・処理されています。

これらの仕組みをより詳しく理解するため、講習中は受講者が端末からSAWACHIのモデルビュアーにアクセス権が与えられており、実際にどのように時系列データが管理されているのかを、JSON形式で構築されたデータ群から学ぶなど、ハンズオンによる学習も並行して行われました。

※SAWACHIの時系列DB

AWSの代表的なKVS(DynamoDB)に比べて、データ検索は約5倍、データ書き込みは10倍と、非常に高いパフォーマンスを誇る。今後本格的なIoTサービスを管理・運営していくうえでも、廉価運用していけるIoTのDBソフトウェアとしても注目されている。

・座学2

つづいて、最先端のDX技術として注目される「デジタルツイン」や、「サイバーフィジカルシステム(CPT)」について紹介がありました。これらはいずれもSAWACHIに既に実装されている機能であり、解説ではSAWACHIのデータモデルや、システムの全体像が、分かりやすい図解としてモニターに表示され、現実世界の情報をもとに仮想世界に双子を構築する「デジタルツイン」がSAWACHIにおいてどのようなデータ取得に役立っているか、また、これらのデジタル空間で得られたデータをフィジカル空間(現実世界)でフィードバックするサイバーフィジカルシステムの役割についても、「部分最適と全体最適」をテーマに詳しく解説いただきました。

また、デジタルツインの解説では、農業分野以外の実用化事例として国内の地盤改良工事に用いられた3DCADも登場し、これまで見ることのできなかった世界(地下空間)を仮想空間上に可視化させることで、「データを用いた精度の高いシミュレーションが可能になったこと」、「工事の正確性が飛躍的に向上したこと」など、実際の実用事例を通してデジタルツインのメリットが語られました。

・座学3

座学終盤では、現在デジタルツインの現場で活躍している3Dレンダリング技術を学びました。はじめにウェブブラウザ上で2次元・3次元のグラフィックをレンダリングするJavaScript API「WebGL」やフレームワーク「three.js」についての解説があり、主要構成要素から、実際に使用するうえでポイントになるカメラの設定、メッシュ作成、光源の作成の説明がありました。

説明後は、受講生も実際にサンプルコードを使用したレンダリングに挑戦し、各種コードを適用することで、モニター上にデフォルトで表示されている球体の色や形状がどのように変化していくかを確かめました。

ミニチュアハウスでデジタルツインを体感

午前の部の最後には、会場にミニチュアの仮想ハウスが登場し、受講者の皆さんに会場内でデジタルツインを体感してもらうユニークな催しも行われました。

仮想空間には、四万十町担い手育成センター付近の3DMAPが用いられ、このMAP上にレンリングされているハウスが、会場のミニチュアハウスとリンクしている設定です。一方のミニチュアハウスには、温度の変化を感知する小型の環境測定装置が搭載されており、会場でミニチュアハウスにドライヤーで暖風を送ると、温度の上昇を測定装置が感知し、それと同時にリンクしているモニター内(仮想空間上)のハウスが寒色から暖色へと変化し、温度の上昇を色で表現される仕組みとなっています。

会場ではこれら一連の実演と合わせて、それぞれの動作の仕組みについての解説も行われ、Blender で作成したモデルのエクスポート、React + Three.js による3D モデルの読み込み、WebGL(Three.js)による描写、APIによるハウス温度の呼び出しについて説明がありました。また、これまで学習した内容を踏まえたデータのグラフ化、Reactを用いて「30度を超えたら自動的にファンがONになるコード」を書くチャレンジなども行われ、受講者もこれまで学習した内容を活かせる機会となりました。

グループセッション 〜3DMAPの改善案〜

午後に開催されたグループセッションでは、午前の部の最後に登場した「四万十町担い手育成センター付近の3DMAP」を再び用いて、「ここから、さらにブラッシュアップしていくには、どんな機能の追加や改善点が必要か?」をテーマに、4つのグループがそれぞれ改善点を話し合い、発表を行いました。

発表では、これまでの学習内容や、さっそく本日の講義で学習した「デジタルツイン」、「3D」といった内容を踏まえた改善案が飛び出し、講師陣も関心を寄せる発表が続きました。なかでも、今回の講義で中心となった「デジタルツイン」と、IoPにおける「多様性」を意識した改善案を提示したDグループが最優秀グループとなり、講習の終わりには記念品も贈呈されました。

発表内容

・環境データだけでなく、各種故障などにも対応した機能の追加

・警告として農家さんの端末に通知が届くオプションの追加

・カメラ機能による仮想空間から現実空間への切り替えタブの搭載

・冬季や寒冷地における路面凍結情報の通知機能

・収穫予測を消費者に開示することによるシナジー効果への期待

優勝されたDグループの発表内容

・現在の情報だけでなく、過去の情報を見られるレイヤーを追加し、様々なデータの比較を可能にする

・圃場で上がった収穫量や労働時間をクラウドに保存し、可視化する機能の追加

・植物の生育状況が映像やデータから確認できるような、農家向けのカスタマイズ機能の追加

終わりに

グループセッション終了後は、受講生の間で様々な意見交換も行われ、親交を深めました。交流のなかでは、各業種の現場におけるデジタルツインの現状や課題、今後の展望が話題となる様子も見られ、「SWACHIのようなIoTを水産業にも取り入れたいが、海のデータ取得が困難(水産業関係者)」、「山間部の災害をシミュレーションし、得られたデータをIoPに活かせる(林業関係者)」などの意見に対して、講師陣や受講者から、海における衛星データの活用案や、他業種行われた山間部での事故の実証実験など、アドバイスも寄せられました。