IoPサミットを令和4年11月29日に開催しました

トピックス

令和4年11月29日、農業デジタル技術の実装を意欲的に進める全国各地の自治体が一堂に会し、それぞれの取り組みの現状、仕組みの面での課題、将来ビジョン等を共有した上で、自治体間連携や仕組みについて、より大きな視点での「あるべき姿」を議論する「IoPサミット」が、高知県農業技術センターにて開催されました。

サミットには高知県のIoP関係者をはじめ、農業DXに関心のある各都道府県から多くの自治体関係者が出席し、開会の挨拶を務めた農業振興部杉村部長は、挨拶の中で「全国の自治体の皆様と、ネットワークの活用方法を共有し、活用していただきたい」と呼びかけました。

●第一部 農業デジタル技術活用 ~取組紹介~

サミット第一部では、高知県IoPプロジェクトの全体像や目的、また目指している農業DXのビジョンを出席している皆様に共有していただくことを目的に、岡林IoP推進監、戸梶普及指導員の2名によるプレゼンテーションと、越塚登教授(東京大学)による基調講演が行われました。

「IoPプロジェクトの取り組み」 プレゼンター/岡林IoP推進監

はじめに高知県農業振興部 IoP推進監 岡林俊宏から、高知県IoPプロジェクトの取り組みついてプレゼンテーションが行われました。

プレゼンテーションは、環境測定装置の導入(H25)から、昨今のSAWACHI構築までの歩みを紹介した内容となっており、時系列順に高知県が直面した問題や課題、それぞれの対応について解説が行われました。

岡林IoP推進監は今回のプレゼンテーションの中で、サミットに出席している他県の自治体関係者に向けて「IoPサミットを開催することで、それぞれの自治体同士が相互に連携し、win-winの関係でIoPネットワークによるデータ駆動型農業を普及していって欲しい」と呼びかけるとともに、「自治体の個人情報の取り扱い問題」や「DXを進める上での自治体の在り方」などについても言及し、情報の共有を行いました。

・「現地でのデータ駆動型普及最前線」 プレゼンター/戸梶普及指導員

つづけて、高知県IoPプロジェクトの現場(圃場)での取り組みや連携について、高知農業改良普及所の戸梶普及指導員より、令和4年度農業普及活動高度化全国研究大会で第2位を収め、農林水産省農産局長賞を受賞(2022.11.16)した「キュウリ産地における成功事例紹介」についてのプレゼンテーションが行われました。

戸梶普及指導員は、プレゼンテーションの冒頭で、県内のきゅうり部会と連携して行ってきた「生育調査」、「土壌分析」、「葉柄分析」、「かん水調査」、「作業時間調査」を紹介するとともに、「得られたデータは非常に多く、当初どこから分析するかは大きな課題だった」とコメント。取り組みを進める上で課題となった要素をはじめ、その後どのような対応や連携を経て、栽培支援に活用できるようになり、また、どれほどの増収効果に繋がったのかについて、それぞれ具体例を交えて解説しました。

・普及所で行ったDX化(ペーパーレス等)

・比較したデータと分析結果

・使用したツール・アプリケーション

・ベテラン営農指導員との連携

・多様な栽培モデルの作成

・取り組み以降の増収効果

・現地検討会・勉強会のオンライン配信(指導員のレベルアップ)

プレゼンテーション後には、出席された自治体関係者から「使用した機材の詳細」や「1農家あたりの人員体制」についての質疑応答もありました。

・基調講演「デジタル活用の最前線」 講師/越塚教授(東京大学)

世界の様々な場所で展開されているデジタル活用の最前線について、東京大学大学院情報学環の越塚教授による講演が行われました。

講演ではデジタル化の最前線で活用されているデータプラットホームやデジタルツインという要素をはじめ、IoT、AI、強化現実(AR)型可視化システムなどを取り入れたスマート農業や地方課題解決の様々なモデルを紹介されました。

また、こういった成功事例を紹介したうえで、越塚教授はデジタル駆動による地域課題の解決では、自治体は何を取り組むべきか、また、どこから改善するべきかについて解説。講演のまとめには、農業DXにおける以下の重要な3点を提示しました。

・コンピュータサイエンスの観点から、農業とデジタル技術の連携は非常に重要

・一般に生物分野はデジタル技術の最も難しい応用分野の一つ

・農学とデジタル技術の連携によりこの問題を克服しなければならない

●第二部 農業デジタル技術の社会実装 ~自治体に求められていること~ パネルディスカッション

サミット後半となる第2部を開始では、 高知県に加え、農業 DX に感度の高い3つの自治体の方々をパネラーとして迎え、各県での取り組みについての紹介、パネルディスカッションが展開されました。

◆ファシリテーター

株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO 八子知礼

◆パネリスト

大阪府 環境農林水産部 農政室推進課 課長 中塚 武司

広島県 農林水産局 農業経営発展課 主査 長戸 玄

長崎県 農林部 農政課 企画監 一丸 禎樹

高知県 農業振興部 IoP推進監 岡林 俊宏

各自治体における農業DXの取り組みについて

パネルディスカッションを行う上で、大阪府、広島県、長崎県のパネリスト様より、各自治体における農業DXの取り組みについてのミニプレゼンが行われました。

・大阪府の取り組み(環境農林水産部 農政室推進課 課長 中塚 武司)

大阪府、中塚課長から、大阪府における都市(近郊)農業の特徴と現状や、水ナスやブドウなど強みある品目、トマト、イチゴ、葉菜類等も含めて、現在推進しているデータ駆動型農業の取り組み例を紹介いただきました。

また、大阪農政の展開方向としては①「力強い大阪農業の実現」、②「豊かな食や農に接する機会の充実」③「農業・農空間を活かした新たな価値創造」の3本柱を主軸とし、さらなるスマート農業技術の導入を促進。新規就農者の早期経営安定、高収益農業を展開していくことで、儲かる農業の実現を目指していく方針を示しました。

・広島県の取り組み(農林水産局 農業経営発展課 主査 長戸 玄)

広島県、長戸主査からは、広島県の農業の現状と課題、スマート農業の実装等による生産性の向上に向けた「経営モデルの確立」、「担い手への普及」、「農業全体の拡大」について解説いただきました。

また、若手の研究員の方が、特産であるネギの生理生態エンジンを作っていくべくIoP共創センターにて研修実施を行っていることや、今後、さらに、広島県と高知県で共同研究を実施していく形で、SAWACHIが持つ、メーカーの壁を越えてデータを集めるデータ連携機能を共有して進めていけるよう検討していきたいとの方針。

・長崎県の取り組み(農林部 農政課 企画監 一丸 禎樹)

遠隔産地であり山間部も多い長崎県は、高知県とも共通点が多い産地。長崎県、一丸企画監からは、高知県とほぼ同時期から環境制御・データ駆動型農業を推進していること。また、イチゴやトマト、キク等の花き類でも大きな成果を上げていることについて、それぞれの取り組みと実績についてご紹介いただきました。また、今年度は、デジタル田園都市事業を活用して、100戸を超える農家を繋いでDXを一気に推進しているとのこと。

・パネルディスカッション

Q 高知県ではIoPクラウド「SAWACHI」を構築し、農家だけでなく普及員や指導員が指導に活かせるよう推進しています。各県ではDX /デジタル化を推進しているでしょうか? 今一度その進捗についてもうかがえますか?

A 中塚課長(大阪府)

施設園芸が中心である大阪府において、ここから収量をあげるにはデータ駆動型が一番だと感じています。大阪府でもすでにデジタル化を推進していますが、今後、高知県のSAWACHIのようなシステムを構築できるのが理想だと感じました。システムが良くできており、「高知県に追いつけ」という声も上がっている。これらのノウハウを共有していくことができれば、取り組みがより円滑に進むことが期待できる。

Q 農業DXを進めるうえで、壁となる課題がいくつかあると思いますが、各県ではどのように考えていますか?

A 長戸主査(広島県)

現在の広島県における農業DXの取り組み段階は、高知県に比べて遅れている状況。そのため、高知県が経験してきた課題が、いずれ自分たちの課題になると考えています。スムーズにデータ化を進めていけるよう、リテラシーの部分も育成していきたい。

A 中塚課長(大阪府)

お金が掛かるというのも大きな問題。実際に農家の方がそこにスムーズに踏み込めるか、あるいは踏み込める仕組みがあるかどうかが、取り組みを進めるうえで重要だと感じています。現状大阪府では理解のある方が少ない。自治体から農家の方にしっかりメリットを伝えていけるよう、周知とデータ化を同時に進めていく必要がある。

A 一丸企画監(長崎県)

先ほど、中塚課長からもお話があったように、デジタルツール導入における経費をどう捻出するかは大きな課題だと感じています。「収益で経費を賄える」というイメージや具体的な数値を提示できるかどうかが大事。また、長崎県の現場では、同様のケースにおいて年代の壁もいくらか感じている。ハードとソフトの問題も解決していかなければならない。

A 岡林IoP推進監(高知県)

実際、先ほど上がったいくつかの課題を高知県は経験しました。大事なのは、解決したい課題を明確にすること、またそれを解決できるデータを用意することです。以前、越塚先生がおっしゃってくれたことですが、存在するデータを並べるのではなく、応用していくことが大切です。

また、農家の課題を解決し、営農・経営指導を充実するためには農家の属性や、栽培管理などの非IoTデータの収集も重要。IoPは自治体だけでなく、農家や関係機関みんなで作り、成長させていくものですが、私たち高知県の最大の失敗としては、この部分を浸透させることが遅れたことでしょう。「こんなの機能が実現する」というビジョンをプレゼンした結果、本質的な部分を伝えるのが遅れてしまったと感じています。

A オーディエンスより(現役農家の方)

農家には積み重ねてきた自分のやり方があるもので、頑固な方が多い一方、同じ農家の声は聞くという傾向があります。そのため、農家のサポーターを広げることも取り組みにおいて重要になる要素ではないだろうか。県内のみにとどまらず、農家さんの横のつながりを拡大していくことも、ぜひ今後の検討材料にしていただきたい。

Q 今後の連携や横展開の可能性も含め、高知県IoPプロジェクトの取り組みがヒントになる部分はないでしょうか?

A 一丸企画監(長崎県)

目的をはっきりさせるという部分が参考になった。今後の取り組みに繋げていきたい。

A 中塚課長(大阪府)

SAWACHIのモデルを参考にしたいと感じた。基礎の部分は共有し、ノウハウの部分は各県でカスタマイズしていきたい。

A 長戸主査(広島県)

これからの時代に向けてIoPのような仕組みづくりを、ぜひ高知県と共同研究していきたいと思う。

●講評 越塚先生

DXはトップのリーダーシップが大事と言われていますが、農業は各々が事業主になるため、トップがいません。それが農業DXの難しい理由であり、新たなリーダーシップが必要になるということでもあります。行政がリーダーシップを発揮し、連携・情報共有していくことが大切です。

また、SAWACHIはバックエンドのデジタルインフラです。作って終わりというものではなく、基礎の部分を真似ていただいくことも、フロントエンドの部分を各々でカスタマイズしいただくことも可能です。各種連携においては、現在は行政と農業のなかだけで機能していますが、いずれは販売や流通とも連携していくことが予想されるでしょう。

●閉会 ~岡林IoP推進監 挨拶~

開会の挨拶を務めた岡林IoP推進監は、「各県のノウハウを共有して、農業を若者が職業として選んでもらえる職業として発展させていきたい」と強く宣言。最後に、出席されている皆様に向けて、あつく御礼の言葉を述べ、閉会の挨拶を終えました。