IoP農業研究会 2026年度研究集会を開催 

イベント

◆IoPはNextステージへ、「AI元年」を掲げる第4回IoP農業研究集会

令和8年8月5日、IoPプロジェクトの最新の知見を共有するIoP農業研究会による「2026年度研究集会」が高知市のラ・ヴィータにて開催されました。IoP農業研究会は、高知県が進める次世代型施設園芸農業プロジェクト「IoP(Internet of Plants)」の研究成果を栽培現場で活用するため、研究者と生産者が一体となって活動する組織です。会場には生産者、関係団体、行政関係者、次世代を担う学生など 80名以上が参加し、環境・生育データの可視化にとどまらず、現場の農家が日々の営農に生成AIをどのように取り入れ、業務効率化や組織課題の解決に繋げているのか、具体的な事例を交えた熱い議論が交わされました。これまでの「データやシステムの基盤整備・蓄積フェーズ」から、「AIなどを活用して現場で高度に実践・展開するフェーズ」へと本格的に移行する大きな節目を迎え、まさに高知県の農業分野の「AI元年」幕開けを感じさせる場となりました。

◆IoP作物部会 各品目ワーキング活動報告

研究会の前半では、IoP作物部会における各品目ワーキンググループとして、高知県農業技術センターからデータ駆動型農業の実践に向けた研究成果が発表されました。ナス、キュウリなどの各ワーキングでは、IoPクラウド「SAWACHI」を通じて収集されたハウス内の環境データ(温度・湿度・CO2濃度等)や収量データを分析し、収量・品質向上に向けた最適な管理指針の検証が進められています。篤農家の圃場における環境管理パターンの可視化と共有、地域ごとの気象特性に応じた環境制御の最適化など、データに基づく具体的なアプローチが紹介されました。発表の中では、単にデータを蓄積するだけでなく、「農家同士がデータをもとに議論し、地域全体の営農技術を底上げするツールとしてどう活用するか」という視点も強調され、現場でのデータ活用が確実に深化していることが伺える報告となりました。

◆【トークセッション】農家が語るAI活用のリアルと現場力

トークセッション「AIとデータで変わるこれからの農業 ―現場力は次のステージへ― 」では、実際に現場でAIを活用して業務改革に取り組む生産者の仙頭明伸氏(せんとうふぁーむ 代表取締役)、宮﨑武士氏(分ち合ふ農園 代表取締役)、西村宙晃氏(下村青果商会 代表取締役)の3名が登壇。それぞれのAIに対するスタンスを語りながら、これまで実際に行ってきた革新的なアプローチが明かされました。

「人育て」と同じようにAIと対話する(仙頭さん)

コードが書けない状態からプログラミング補助AI「Claude Code」等を導入した仙頭さん。視察で訪れたハーブ農園での直感的なタッチパネル操作に着想を得て、現場の高齢スタッフでも指1本で指示を出せるシステム開発に着手しました。画面レイアウトの細かな調整をAIに指示する際、繰り返し対話を重ねることで自分の説明が上手くなり、プロンプト(指示文)が研ぎ澄まされていった経験を「AIとのやり取りは人間を育てている感覚と一緒」と語り、キーボード入力ではなく音声入力(マイクボタン)を活用することがハードルを下げる最大のコツだと明かしました。

評価や指摘のクッションとしてAIを頼る(宮﨑さん)

宮﨑さんは、システム構築を委託する民間企業と連携して、アナログで管理していた収穫のスピードや進捗状況のデジタル化に取り組みました。代表者として現場のスタッフに直接注意すると場の雰囲気が悪くなりがちという課題に対し、AIにデータに基づく客観的なフィードバックを担わせる構想を提示。リアルタイムで従業員の作業を見える化するスマートウオッチなどを利用。「AIに評価の一部を肩代わりしてもらうことで、従業員のモチベーションが高まる環境を作りたい」と述べ、ツール導入の先にある「現場の雰囲気改善や地域課題の解決」という経営目線の重要性を強調しました。

参謀としてAIと「壁打ち」する(西村さん)

経営規模の拡大により事務作業、技術の追求、人材育成などの停滞が起こり、ビジネスの機会損失を防ぐことが重要課題となった西村さん。こうした課題を解決するために困っていることをAIに伝え、出荷管理ソフトなどを内製化しています。移動中の車内などで思いついたアイデアや、経営の悩みをスマホに録音し、まずはGeminiで思考を整理しているという。その内容をさらにClaudeへ渡して構造化し、複数のAIの特性に応じた高度な使い分けを実践しています。ただし、「日々の重要な判断や人への直接的なアプローチはAI任せにせず、自分が最後のアクションを起こす」と話します。AIはあくまで自身の思考を深めるための参謀・パートナーであるが、将来AIは、道具として農家の日常に溶け込んでいくスマホやパソコンに近いものになると感じています。

◆ポスターセッション

研究会の後半では、会場内にポスターセッション用のブースが設けられ、IoPに関する最新の研究成果や、生産者が独自に構築した先進的な営農スキームやシステムの展示が行われました。高知県農業技術センターや高知大学IoP共創センターのシステムやポスターも展示説明に参加。多くの来場者が各ブースを精力的に回り、出展者へ熱心に質問を投げかける姿も見られました。トークセッションに登壇した仙頭さん、宮﨑さん、西村さんのブースにも農家や自治体、学生が集まり参加者の輪が出来ていました。最先端技術の実証データから現場目線の工夫が詰まったシステムまで、直接解説を聞きながら情報交換を行うことで、参加者全体の関心と理解がより一層深まる貴重な場となりました。

◆【閉会挨拶】現場の生データが生成AIを育て、IoPを次のステージへ

閉会挨拶では、北野雅治氏( IoP共創センター特任教授)からのビデオメッセージが会場に届き「既存のデータだけに頼っていてはAIの成長も停滞する。農家の現場で集まる日々の収穫データや生きた情報を学習・訓練させてこそ、IoPとAIの真の連携が生まれる」と、現場データを持つ農家の優位性と役割が提示されました。さらに、高知の施設園芸が日本一と称される真の理由は、単なる技術力だけでなく、「現場力を持つ農家同士がノウハウをオープンに共有し合える風土」にあると語り、会場全体での万歳三唱とともに次回研究集会(第5回)への期待を込めて集会は幕を閉じました。