本コラムは、植物生理や栽培環境の基礎について、日々の栽培における気づきや課題解決に繋がるような情報を、定期的に発信しています。お時間あるときにでもお読みください。
前回のコラムでは、「水は移動しやすい方に常に移動していく要因として、4つの力関係に依存します」とお伝えしました。まずは4つの力について簡単におさらいしましょう。
まず一つ目の「重力」は最もイメージしやすいものですね。高い所から低い所に水が動くというのは普段の生活の中でもよく目にすることです。
次は「圧力」でした。灌水チューブの例をご紹介しましたが、ポンプで押された水がチューブの孔から水が勢いよく出てくるのは、チューブの圧力が高まるためです。
三つ目は「浸透圧」です。濃度の濃い方に向かって水は移動していきます。きゅうりや白菜に塩を振ると、中の水分が外に出てくるのは浸透圧の作用によるものです。
そして最後は水分子が集まる力である「集積力」でしたね。集積力によって、表面張力や毛細管現象、吸着力といった特性がありました。
これら4つのパワーバランスで水の動きがきまるのですが、実際の栽培においてどんなシーンがあるか例をあげてみてみましょう。
【土の中】
まずはじめは土の中を覗いてみます。
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水の動きの前に土の特性、土性について整理します。土性はその粒の径によって区分されています。
2ミリ以上を礫、2~0.02ミリを砂、0.02~0.002ミリをシルト、0.002ミリ以下を粘土と定義されています。
圃場の中の土性は一律ではなく、ある部分は若干砂地で水抜けがよくて、別の部分は粘土質で水抜けが悪くてぬかるんでしまうなんてことは良くあります。
この場合、粒が細かい粘土質土壌では、集積力の特性である吸着力によって、隙間に入り込んだ水が動きにくい状態にあるために水が抜けづらいのです。
一方、砂地土壌では、粒の隙間が大きいために水が動きやすく、灌水した部分から早く抜けて(別のところに移動して)しまうということになります。
水はけを改善する目的で暗渠を入れる対策がありますが、粘土質土壌の間に、吸着力が極めて弱い、砂利などの礫を入れて水が動きやすい隙間を空けて、その中に排水パイプを通すことで、粘土内に吸着した水を動かして排水することで改善を図っているのです。
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【植物の体内】
次に植物の体内を見てみましょう。
土壌に灌水された水は行き場を探しますが、そこに根があると根の高い濃度に触れて、浸透圧がはたらいて、水は根の中に入り込んでいきます。
そして吸着力特性のひとつである毛細管現象により、道管という管を昇っていきます。途中に葉や果実があればそちらにも流れ込もうとしますが、特に糖濃度の高い果実には浸透圧の特性によって多くの水が流れ込んでいきます。これは「転流を見た!」コラムでお伝えした果実肥大の水太りに繋がりますね。
また転流における水の動きでは、パワーバランスが絶妙に関連しあって糖の運搬をおこなっており、その様子を下の図にあらわしてみました。
植物がエネルギーを使って葉から糖を取り出すと、導管を流れる水が浸透圧によって糖濃度の高くなった篩管に入り込んでいきます。
そして糖を含んだ水は篩管を通って果実などに向かうのですが、篩管のなかは細い弁で区切られた部屋がつながっているような構造をしていて、一つの部屋に水が入り込んでその部屋内が満たされて圧力が上がることで、次の部屋に水が勢いよく流れ込んでいく動きをします。
このような連続した部屋の圧力による流れを利用して、糖を含んだ水は篩管を移動していきます。そして最後の部屋に流れ込んだところで、またも植物はエネルギーを使って糖を取り出して果実などへ送り込み、糖の抜けた残った水は部屋の圧力に押されて導管に戻っていきます。このように転流では浸透圧と圧力の絶妙なバランスによって、水が糖を運び、植物の成長を助けているのです。
因みに葉から糖を取り出したり、果実へ糖を送り込む動きでは、浸透圧の動き(濃度の高い方に流れる)とは逆方向となるため自然物理現象に任せられず、植物はエネルギーを使ってその動きを行っています。
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根に入り込んだ導管の水は葉っぱにも流れ込みますが、葉の気孔が開いて蒸散がされていれば、ここまでたどり着いた水は蒸発という形で空気の中に移動していきます。
蒸散によって葉の気孔という出口から水が出ていってしまうので、土中の水はどんどん根の中に入り込んでいきます。また夜間においても土中の水の入り込みは続きますが、出口の気孔が閉まって水の行き場がなくなるので、水圧によって植物体内の圧力が上がっていきます。
そしてその圧力と浸透圧によって根に水が入り込む力が拮抗するまで流入は続きます。朝方の圃場で葉っぱがピンと張っていたり、果実がパンパンに肥大しているのは、水の流入が旺盛に行われた結果、植物体内の圧力が凄く高まっている状態を表しているのです。
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普段の生活では「水は上から下に流れるもの」という程度の意識しかありませんが、水の持つ特性は、植物が育つうえでいろいろな場面で利用されている、自然物理現象だということがご理解いただけたでしょうか。状況によって重力に逆らって上に昇ることもあれば、横に移動することもあります。
植物は、自らの成長のために水の移動のような自然物理現象をうまく活用しながらも、それに任せられない動きについては、自分のエネルギーを使って対応をしています。
以前にもお話したとおり、エネルギーの生成は呼吸によって行われるもので、呼吸は温度に影響されます。私たち人間は、植物体内の自然物理現象を変えることはできませんが、周囲の環境を変えることはできます。環境を制御することで、植物成長の動きをよりスムーズにさせたり、時には動きを抑制させたりすることが、栽培における環境制御の本質ですね。
自然物理の動きを知り、エネルギー利用のアクセル操作となる栽培環境をうまくコントロールできれば、栽培がもっと楽しくなるのではないでしょうか。
次回に続く
(IoP農業研究会 情報発信担当)
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