【IoP農業研究会】連載コラムNOTE(第12回) 「水はどこ行くのか? ①」

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本コラムは、植物生理や栽培環境の基礎について、日々の栽培における気づきや課題解決に繋がるような情報を、定期的に発信しています。お時間あるときにでもお読みください。

前回のコラムで水の特性について「水は移動しやすい方に常に移動していく」と話しました。この水の動きは、植物生理や栽培にとても深く関わりのある内容となりますので、今回のテーマとして取り上げたいと思います。

栽培における水の動きをイメージすると、灌水した水が土壌に移動して、根から植物体に入り込んで各所に移動して、葉に向かった水は蒸散によって大気に移動していくという感じになりますね。この行程のなかで、水の移動をつかさどる要因は次の4つになります。

①   重力・②圧力・③浸透圧・④集積力

それぞれがどのような影響を及ぼすのかひとつひとつみていきましょう。

①【重力】

水の移動と聞いてまず思い浮かぶのは、コップの水がこぼれる時のように高い所から低い所に移動するということかもしれません。水が移動する要因として『重力』に影響を受けるという考えは正解のひとつですが、一般の生活と違って植物の中でおきる事象については、水の移動は重力よりも他の影響をうけるケースが断然多いのです。

②【圧力】

水に圧力がかかると、圧力の低い方に移動しようとしますね。ポンプなどで加える圧力が重力より強ければ、水は重力に逆らうような方向にでも移動していきます。また灌水チューブに水が満たされてチューブ内の圧力が高まると、水はチューブから出てきます。

③【浸透圧】

3つ目の水の移動要因は浸透圧になります。これは溶液の濃度差に基づいて水が移動することで生じる現象です。水は濃度の濃い液体の方に移動していく特性があります。きゅうりや白菜などに塩をふると水が出てきますね。野菜の中の水分が塩分濃度の高い外に向かって動き出します。そうすることによって、野菜は水が抜けてクタクタな状態になってしまいます。

水が根に吸収されるのはまさに『浸透圧』によるものです。通常は根の中の水分濃度の方が高いので、土中の水は根に入り込んでいきます。逆に土壌障害や過剰施肥で土中の濃度の方が高いと、根から外に水が流れ出すため、生育に悪影響を及ぼしてしまいます。

④【集積力】(表面張力・毛細管現象・吸着力)

最後の移動特性要因は水の集積力です。ちょっと難しくなりますが、集積力とは水分子が互いに引き寄せ合う力のことです。この力は次のような水の持つ多くの特性に影響を与えます。

●表面張力

水分子同士が強く引き寄せ合うことで、水滴が形成されやすくなります。これにより、水が一箇所に集まる傾向があります。コップに水を満たすと、わずかながら表面が盛り上がるのが表面張力の現象ですが、その表面の状態は、水が集まり丸くなって盛り上がる力と、下に引っ張る重力とが均衡した状態となっています。

●毛細管現象

細い管や毛細管構造などで見られる現象で、水が狭い空間に引き込まれる力です。ティッシュを上から水に浸すと、水はティッシュの細かい繊維を伝って上がっていきます。毛細管現象で引き込まれた水は重力に逆らって上へ昇っていきますので、この時の力は重力より大きいと考えることができます。

●吸着力

多孔質の材料や土壌の表面に水が引き寄せられる力です。小さな孔には水が保持されやすくなります。例えば綿のタオルと、身体を洗うナイロンのゴシゴシタオルに水を吸わせた状態で放置すると、ゴシゴシタオルの方が先に乾きますが、これは綿のタオルの方が繊維間の孔が微細で水が強く保持されるためです。

うえであげた4つの移動要因 ①重力・②圧力・③浸透圧・④集積力 この4つのパワーバランスによって水の移動する先が決まるのです。

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普段の生活では「水は上から下に流れるもの」という程度の意識しかありませんが、水の持つ特性は、植物が育つうえでいろいろな場面で利用されている自然物理現象なのです。

今回は移動に影響を及ぼす要因をそれぞれご紹介しましたが、次回コラムでは実際に栽培現場において水の移動によって何が起きているのかをご紹介したいと思います。

次回に続く

(IoP農業研究会 情報発信担当)

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