【IoP農業研究会】連載コラムNOTE(第11回) 「転流を見た!」

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本コラムは、植物生理や栽培環境の基礎について、日々の栽培における気づきや課題解決に繋がるような情報を、定期的に発信しています。お時間あるときにでもお読みください。

2月4日に農業技術センターにてIoP農業研究会の研究集会が行われました。ここでの特別講演として、九州沖縄農研センター上級研究員の日高功太氏より『CO2施用と転流における最新研究について』をテーマに研究発表をいただきました。日高氏はイチゴ栽培をベースに転流の見える化の研究に取り組んでおり、その研究成果をご紹介いただいたのですが、実際に光合成で葉っぱに溜まった糖が、イチゴの実に移動していく様子が動画でみられたのは非常に興味深いもので、さらに葉っぱによって転流先(糖が移動する先)の果実が決まっていて、複数の決まった葉で一つのイチゴに糖が送られている様子が見えるなど、驚くような内容もありました。

残念ながら、この時の資料や動画を全てここで共有することはできないのですが、いつもコラムの末尾でご紹介している「IoP塾オンライン講座」にて、三好先生の動画があがっておりますので、それを見れば同様の内容が確認できます。「生きた転流の見える化と制御は可能か?」というテーマの動画で、とても面白い内容ですので是非ご視聴なさってはいかがでしょうか。
(「光合成産物の転流の自由自在な制御に向けた研究」の回でも紹介されていますので、興味がある方は合わせてご覧下さい。)

ちょっと前段が長くなりましたが、第11回コラムは転流と果実肥大についてお話したいと思います。

あらためて「転流」とは光合成によって葉内で生成された栄養(糖)を、植物体の各所(果実・成長点・根・葉など)に輸送する活動をいいます。下の図は果実への転流から果実が成長する様子を表していますが、送られてきた栄養(糖)は果実がもっと大きくなるための組織細胞の形成に利用されます。ここでいう細胞形成とは、①細胞分裂による量の増加、②それぞれの細胞が大きくなる細胞成長のことを指します。

「転流によって果実が肥大する」と理解している方が結構いらっしゃいますが、転流は果実が肥大するための栄養を送るはたらきであって、果実が肥大するのは別のプロセスが必要ということなのです。

別のプロセスとは、まずは上で説明した細胞形成(細胞分裂・細胞成長)です。それとともに、最も肥大に影響するのは細胞伸長となります。細胞伸長とは、細胞内にある液胞という部分に水が流入して細胞内の圧力がたかまって細胞が伸びることで、その結果として果実は肥大していくことになります。つまり果実の肥大は言い換えれば果実を構成する細胞の「水太り」状態ということです。果実の90%程度以上は水分ですから、当然と言えば当然のことですが…。

いちど整理してみましょう。果実の肥大は次のステップで行われます。

① 転流により葉から果実に繋がる師管をとおって糖が果実に送られる

② 果実の細胞は分裂して数が増え、それぞれの細胞は送られた糖を使って成長し大きくなる

③ 細胞内にある液胞に根から果実に繋がる導管からの水が流れ込み、細胞伸長により膨らむ

④ 上の①~③のステップが繰り返されて肥大が継続する

ここでは果実肥大を例にしましたが、糖の行き先である成長点や根、葉なども同様に大きくなってきます。根からはたくさんの水が植物体の各所に送られ続けていることで、内部には大きな圧力が生まれるので、植物は倒れず、葉はピンとはり、果実もぐんぐん大きくなるのですね。もし水の供給が途絶えれば、葉は萎れ、果実も張りを無くして萎み、植物は倒れてしまうのです。

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蒸散により根から水が吸収されるということは良く知られていますが、「水は移動しやすい方に常に移動していく」という水の特性により土壌の水が植物体に移動する現象は、蒸散の起こらない夜間にも発生しています。

よく「夜間に根圧によって水が吸収される・・」と表現されることもありますね。つまり曇天で光合成が少なく、転流する糖が少なくても、この水の移動特性により既にある細胞の液胞に流入することで果実などは肥大するのです。但し曇天が続き、細胞の成長がしっかり行われないと水の入り込む余地がなくなってしまい、肥大はしなくなってしまいます。

好天時にしっかり光合成をさせて糖をつくり、その糖によって細胞を成長させて、水をたっぷりと取り込むことがやはり高い収量を上げることにつながっていくのです。

次回に続く

(IoP農業研究会 情報発信担当)

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