本コラムは、植物生理や栽培環境の基礎について、できるだけわかりやすくご紹介して、日々の栽培における気づきや課題解決に繋がるような情報を、定期的に発信してまいります。長すぎず、複雑すぎず、でも何だか知って得するような内容を心がけますので、お時間あるときにでもお読みください。
第5回目のテーマは、『除湿してますか?』です。
ハウス内の湿度が原因で病害が発生するというイメージをお持ちの方は多いと思います。SAWACHIの提供する病害予測画面にある「対策方法」にはこんな表示があります。
12月~2月の対策
●湿度を下げる(植物体に結露をさせない)対策を行いましょう。
●換気時間を長くしましょう。
●外気温とハウス内気温を見ながら内張を開けましょう。
●早朝加温を行いましょう。

前回のコラム「湿度を知る」の知識を使えば、なぜこれらの対策が有効かを推測することができますが、中には分かりづらいものもありますので、今回はそれらの理解が進むような内容としたいと思います。
まず対策のなかで一番わかりやすいのは「・早朝加温を行いましょう」ですね。
相対湿度の計算式をおさらいしましょう。

早朝の日の出前であれば蒸散も殆どないために空気中の水蒸気量はあまり増えませんが、加温することで温度が上がり飽和水蒸気量が増えるので、この式の分母はおおきくなります。
したがって早朝加温実施の目的は、相対湿度(%)を下げることにあります。
次に分かりやすいのは
「・換気時間を長くしましょう」でしょうか。
換気窓を開けて換気をすると湿度が抜けるということは経験や感覚では分かりますが、実際にはなぜ湿度が抜けるのでしょうか?
暖かい空気は冷たい空気より上に移動していきます。下の方が上に比べて温度が低いことはみなさん経験的にお分かりでしょう。これは暖かい空気の方が密度が低い(すなわち軽い)ために上に移動していくためです。このときの空気の流れを「対流」といいますが、換気窓を開けることによってハウス内外の温度差がおおきくなれば対流はさらに活発になりますので、内部の空気と外部の乾いた空気との入れ替えも活発に行われます。
また風により外部の空気が流れ込めば、入り込んだ量と同じだけの内部の空気が外に出ていきますので、入れ替えが行われます。換気時間を長くすれば、入れ替え量は増えるので「除湿量も多くなる」という結果につながりますね。
そして残るは、
「・外気温とハウス内気温を見ながら徐々に内張を開けましょう」です。
内張を開けると温度が下がって暖房機が動きやすくなるから!と考える方もいるかもしれません。しかしこの対策の本当の目的は露点温度を利用した除湿にあります。第3回コラムで簡単にご紹介しましたが、露点温度とは空気中の水蒸気が飽和して露ができてしまう温度のことです。
露点温度を説明するときによく使われる例で、「暖かい部屋で冷たいビールジョッキの周りに水滴がつく」っていうのがありますね。これは、冷たいビールジョッキの外側に触れた空気の温度が下がり、空気に含まれていた水蒸気が結露して水滴になってしまう現象を表したもので、ビールジョッキの表面温度が、周りの空気の露点温度より低い場合に発生します。

例えば室内の空気に含まれている水蒸気(絶対湿度)が20g/㎥だったとします。そして冷たいビールジョッキの周りの空気に入り込むことのできる最大水蒸気量(飽和水蒸気量)が5g/㎥だとします。そうなると20gの水蒸気をもった空気が、ビールジョッキに触れて5gしか水蒸気が入らない温度近くまで冷やされることによって、空気から追い出されてしまった水蒸気が水滴となってジョッキの周りについてしまうのです。
この現象は水蒸気をたくさん持っていた空気から、結露という形で水蒸気が抜ける状態ですので、「除湿」していることに他なりません。
ハウスの内張を開ける対策の目的は、まさに除湿を目的に結露を促して、ハウス内の高い湿度の空気から水蒸気を抜いてしまいましょうというものです。もちろん内張でもその温度が露点温度より低ければ結露による除湿はされますが、下の図のように内張を開けることで暖かく湿った空気を上昇させて、外側の被覆に触れさせることでより多くの結露が進み除湿効率は上がります。

ただし、外気の影響で暖房コストに影響がでるので、コストと除湿効果の兼ね合いで、
「・ハウス内気温を見ながら徐々に内張を開けましょう」
となっているのでしょう。
結露による「除湿」は夜間の湿度対策には有効な手段です。暖房費節約のために保温に意識が行きがちですが、保温と除湿のバランスを考えながら、結露を利用した除湿を意識して夜間の温湿度管理を考えることは、病害予防の手段としてとても大切です。
この下の図は実温度と露点温度の差を、相対湿度90%の空気と80%の空気の2パターンでグラフ化したものです。

相対温度80%の場合の露点温度は実温度より約4.4℃低く、90%の時は約2.6℃低くなっています。したがって湿度の高い状態では少し温度がさがるだけで結露が発生する傾向にあると理解すればよいでしょう。
農ビにくらべてPOのハウスは乾くと言われますが、若干保温力が劣るPOの方が外気による冷却が高く、結果として結露による除湿量が多いからとも考えられますね。
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SAWACHIでは病害予防に有効な3つの対策が紹介されていますが、その対策の意味を理解したうえで実施することは、対策の効果にも影響してきますし、この他にもいろいろな場面での活用ができるようになってくると思います。
「除湿」を使って病害予防につながる湿度管理については知っておくべきトピックがまだあります。次回コラムも引き続き「除湿」に焦点を当てた内容とする予定です。
次回に続く
(IoP農業研究会 情報発信担当)
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