【IoP農業研究会】新連載コラムNOTE(第4回) 「湿度を知る」

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 本コラムは、植物生理や栽培環境の基礎について、できるだけわかりやすくご紹介して、日々の栽培における気づきや課題解決に繋がるような情報を発信してまいります。

 前回のコラムは「気温」のお話でしたので、その次となるとやはり「湿度」となりますね。

 第4回目テーマは『湿度を知る』です

 栽培において湿度コントロールは大切でありますが、植物生長の観点以上に、「病害」の大敵というイメージが大きいのではないでしょうか。「敵を倒すのであれば敵を知らねばならない!」ということで、そもそも「湿度」とは何かをみていきましょう。

 「蒸し暑くてベトベト~」とか「カラカラで喉がガラガラ~」というのは湿度が影響していることはおわかりでしょう。湿度というのは私たちや植物の周りにある「空気の湿り具合」です。少し学問的に表現すると「空気中に含まれる水蒸気の量を示す指標」となります。

 湿度には「相対湿度」「絶対湿度」という2つの要素があります。SAWACHIをはじめ環境測定器で%単位の表示をしているのは「相対湿度」です。一方の「絶対湿度」とは、1㎥の空気中に含まれる水蒸気の量を重さで表していますので、単位はg/㎥です。
まず一般になじみ深い「相対湿度」について深堀してみましょう。

 「相対」というからには何かと何かが相対しているのですが、それらは「空気中の水蒸気量」と「空気が含むことのできる水蒸気量の最大値 ⇒ 飽和水蒸気量」の相対値です。

 ちょっとわかりにくいかもしれませんが、大前提として空気は無限に水蒸気を含むことはできず、その時の温度によって限界値があるのです。お風呂場などで盛大に湯気が出ているところの空気なんかは「もうこれ以上の水蒸気は入れません!」って感じで飽和しますと、空気に入れさせてもらえなかった水蒸気たちは仕方なく、仲間同士繋がって水蒸気の塊(つまり雫)になって壁や天井にだらしなく貼り付いてしまうのですね。

 この時に無事に空気に入れた水蒸気の総量が「飽和水蒸気量」ということです。

 そして相対湿度ですが、式で表したら分かりやすいと思います。

 ここでのポイントは、飽和水蒸気量は温度が上がると増えて、下がると減ることです。上がった場合には分母がおおきくなるので、相対湿度は小さくなりますね。つまり、空気中の水蒸気の変化量が少ない状況で、日射や暖房によって温度が上がれば、相対湿度の%は下がるのです。

 温度によってどれだけ飽和水蒸気量が変わるのか例示してみます。10℃を基準に20℃・30℃においての空気中に含められる最大水蒸気量は20℃で約2倍、30℃では約3.5倍も多くなります。ハウスの湿度対策として「加温しましょう」と言われるその中身は、「温度を上げて飽和水蒸気量を上げて相対湿度を下げましょう」ということですね。

 次に「絶対湿度」について見てみましょう。『絶対』というのですから、なかなか毅然な感じのする湿度かなぁと思いますが、その実態は温度と相対湿度の条件で1㎥の空気に含まれる水蒸気量(重さ)を示すものです。式で表すとこうなります。

絶対湿度(g/㎥) = 相対湿度(%)×飽和水蒸気量(g/㎥)

 具体的な例として、昼頃のハウス内温度28℃、相対湿度80%を条件として計算すると絶対湿度は 22.6g/㎥になります。仮に10アール軒高3mのハウスだとすると、3,000㎥の空間となるので  67.8kgもの水蒸気が空気中に溶け込んでいる計算になります。

 さて相対湿度と絶対湿度が分かったところで、次は栽培管理によく話題になる「飽差」についてです。「飽差管理はどうしてますか?」などと聞かれた時に「うーん、うちは飽差は5目安かな」って感じにカッコよく答えられるようにここで覚えてしまいましょう。

 「飽差」とは、現在の絶対湿度と飽和水蒸気量との差のことです。式で書くとこうなります。

飽差(g/㎥)=飽和水蒸気量(g/㎥)ー  絶対湿度(g/㎥)

   言い換えると、「現在の空気の中に、あとどれくらい水蒸気が入り込めることができるか」の指標となります。飽和水蒸気量は温度によって変化し、絶対湿度は相対湿度によって変化するので、飽差は温度と相対湿度の組み合わせで算出されます。

「飽差が大きい時 ⇒ たくさん入り込める」

「飽差が小さい時 ⇒ 入り込める量が少ない」

となります。

 先ほども例にあげた、昼頃のハウス内温度28℃、相対湿度80%の条件で算出すると飽和水蒸気量は28.3 g/㎥、絶対湿度は飽和水蒸気量の80%で22.6 g/㎥なので、その差の5.7 g/㎥が「飽差」として算出されます。
 

 毎回計算するのも面倒ですので、「飽差表」でネット検索すれば温度と相対湿度の組み合わせで飽差値がわかる表がごろごろ転がっています。

 栽培時における飽差の適正値は3~7g/㎥程度と言われていますが、それは次のような理由からです:

● 蒸散の最適化

● 気孔開度への影響

● 病害予防

● 総合的なハウス内環境最適化

 それぞれの根拠について今回は説明しませんが、飽差を意識した管理とは、いいかえれば温度と湿度を意識した管理となりますので、植物生長におけるエネルギー生成と消費のバランスコントロールには大切な指標となりますね。

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 今回は「湿度」についてから「飽差」のお話になりましたが、湿度は栽培においてとても気になる病害の原因になります。先ごろSAWACHIで見られるようになった病害予測においても、温度と湿度の関係からその発生リスクを予測しています。湿度が病害をもたらす仕組みについても、本コラムで取り上げていく予定ですのでどうぞご期待ください。

次回に続く
(IoP農業研究会 情報発信担当)

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