活用事例

Vol.31

理論と実験で植物の生理生態を解き明かす

高知大学IoP共創センター
教育研究部自然科学系農学部門 准教授

野村 浩一さん

研究者

IoP共創センターで何をやっていますか?

野菜の成長の速さや収穫量を予測する仕組みづくりに取り組んでいます。

専門は植物の光合成で、環境データの計測と解析などによって、植物の生理生態の理論を研究しています。例えば光合成の速さを計測することで、つくり出す糖分の量が推定できる。そこから植物の成長の速さや果菜類の収穫量が予測できるような仕組みづくりに取り組んでいます。ハウス栽培では温度やCO₂濃度などを制御できますから、それによって光合成の量や成長の速さを最大化できるはず。その理論を解き明かし、どのような環境下で収穫量が上がるのか農家の皆さんに情報提供したり、いまの環境ならばどれくらいの収穫量になるのかを予測したりすることができればと考えています。
いま行っているのはニラの潅水についての研究で、高知県農業技術センターに協力してもらって実験しています。市販のものでは細かい制御ができないので、潅水装置を自作しなければなりません。加えて、土壌の水分量などの条件に応じて潅水するためのコンピュータ・プログラムも組む必要があります。同時に実験計画も立てます。植物の実験では“たまたま”反応が起こる(起きたように見える)こともよくあるので、それが“たまたま”起きたものなのか、科学的に信用できるもなのかを見極めなければなりません。区画数や与える条件など、実験のデザインを考えます。この部分が研究の成否の8割がたを決めるので、非常に頭を使うところです。
また、栽培現場レベルで光合成量を推定するために、光合成の“見える化”にも取り組んでいます。ナスやニラのほか、キュウリ、ピーマン、シシトウを対象に理論化を進めています。


高知で農業について研究していて気付いたことは?

農家さんが持つ知識の広さに驚くとともに、農業の難しさを実感しました。

高知に来てから農家の皆さんと会うことが増えたのですが、農業に関する幅広い知識を持っていらっしゃる方ばかりで、日々、勉強させてもらっています。私は光合成について大学で研究してきましたが、光合成の知識だけでは営農をすることができません。多くの農家さんは、土づくりや栽培管理、病害虫、流通に至るまで、営農に関するあらゆることに通じています。何十年も営農に携わってきた農家さんは当然、「営農」のプロフェッショナルです。教えてもらうこと、勉強になることばかりです。
それでも、農業経営は外部の要因に影響を受けやすく、昨今の肥料費・燃料費などの高騰のあおりを受けて、経営が苦しくなってきている、という声も伺います。ですので、私たちの研究によって、少しでも農業の困りごとを解決したいと強く思っています。
そのための取り組みのひとつとして、現在、コンピュータ上で育つナスを作っています。光合成の理論をもとにナスの成長をコンピュータ上で再現するもので、温度や光やCO₂濃度を変えたときにどのように反応するかをシミュレートします。ベストな環境管理をする目安や、あるいは新規就農者にとっての教材として使えるようにしたいと考えています。
また、いまとても興味があるのが、個々の農家で収穫量の多寡が生じる原因を把握できないかということ。私は土の違いが大きく影響しているのではないかと考えています。土の構成について調べ、栽培に適した土の構成の基準のようなものを示せればと思います。
あるナス農家さんは、IoPで推定した葉の量を、摘葉の目安として使ってくれているそうです。私の場合、何のためにこの研究をしているのか、と考えてしまうことがよくあるのですが、研究が実際に役に立っていることがわかるととても嬉しいですね。


IoP人材の育成についてどのように思いますか?

IoPの研究を通じて、学生に多くのことを伝えたいです。

今年の秋から私の研究室に学生が配属される予定です。植物の生理生態についての計測や理論化が研究室のテーマになるでしょう。デジタル化やAIなど、社会で注目されている技術を学べる土壌があるので、意欲のある学生にぜひ来てほしい。IoPプロジェクトで集まったデータの活用も可能なので、より現場に即した研究や論文発表ができると思います。
学生の皆さんには、興味のあることをしっかり勉強することと同時に、他人の意見を鵜呑みにせずに自分の頭で考えることが大切だと伝えたいですね。