活用事例

Vol.32

IoPデータからの新たな知見で、生産者の期待に応える

高知県農業技術センター 農業情報研究室

五藤雄大さん

研究者

IoPを活用したどのような調査を行っていますか?

ナスの開花数と着果数をAIにより画像から計測し、そのデータを用いた分析をしています。

IoPのプロジェクトが立ち上がったとき、農業技術センターでナスの栽培試験を行っていました。高知県の農業は、新しいことにチャレンジする場合、一番の主要品目であるナスからスタートするので、私が担当するのだろうな、と気を引き締めたことを覚えています。
まず取り組んだのは、ナスの開花数と着果数のAIによる自動計測です。収量に直接関係することなので、ナス栽培では以前から開花数と着果数をチェックしています。ただし、それは週1回、人間が目で見て確認する手法。IoPのプロジェクトによる研究成果ではハウス内に設置されたカメラにより、毎日、自動で計測されます。
カメラから花までの距離が遠い場合は、うまく撮影できないのでは?という危惧もありましたが、そういったことはまったくなく、生育の状況を滑らかにとらえていました。週1回だと開花が確認できないケースも出てきますが、毎日チェックすると見逃すことはなく、得られるデータの量は桁違いです。
ナスは多くの花が咲いたあと、実が大きくなるにつれ、開花数が減っていきます。実を収穫すると、株の負担が少なくなるので、また花が多く咲くようになります。膨大なデータを分析すると、こうしたナスの生育のトレンドがはっきり見えてきました。株の生育状態を把握するのに、非常に有効な方法だと思います。


光合成の「見える化」についてはどういった調査を?

生産者によって、光合成速度が2倍以上も異なることがわかりました。

IoPでは光合成の「見える化」について重点的に取り組んでいます。私は取得したデータを使って、どういう傾向があるのかを分析しました。生産者10名の協力のもとに計測し、1日平均の光合成速度の最大値と最小値を比較すると、その違いは2倍以上もありました。なぜ、これほど大きな違いが出たのか。光合成にはCO2と光というふたつの要素が大きく影響します。CO2に関しては、外気は通常400ppmほどですが、ハウスを締め切ったままでいると、300ppmほどまで低下することがあります。この変化は光合成に直接影響し、光合成量が50~60%程度まで落ちるといわれています。このため、生産者はハウス内にCO2発生装置を設置し、CO2濃度を制御するように努めるわけです。先鋭的な生産者の場合、光が十分ある時間帯にはCO2濃度を高めるといった、より一層の工夫も行っています。
光については、ハウス内に日射がより入ってくると、当然、光合成が盛んに行われます。しかし、天井のビニールが汚れている、あるいは温度保持のためにハウス内を仕切るビニールカーテンを締め切ったままだと、光合成をするための十分な光が得られません。以上のようなCO2濃度と光の要因等から、生産者ごとの光合成量に大きな差が出たのではないか、と推論することができます。IoPクラウドSAWACHIで、こうしたデータは開示しているので、ぜひチェックして、日々の管理に活かしてもらえればと思います。


今後はどのような取り組みを行いたいですか?

IoPの対象品目を増やすとともに、生産者がより使いやすい情報提供を図ります。

IoPの取り組みによって、ビッグデータが大分たまってきました。現在、利用されている生産者は1,150戸弱で、ナスを筆頭にニラやキュウリ、ピーマン、シシトウなどで行われています。なかでも、キュウリは安定して収量が見込めるツル下ろし栽培の指導など、県が主導する環境制御が功を奏して収量が飛躍的に伸びたので、IoPに対しても期待が大きいのではないでしょうか。光合成の「見える化」については、高知大学の主導により、トマトとパプリカでも可能となりました。今後は、他品目にも拡大していけたらと思います。
IoPに寄せる生産者の方たちの期待を、最近、ひしひしと感じるようになりました。IoP農業研究会などの集まりのなかで、先進的な生産者に意見を求める仕組みがあるからです。いまの課題は、生産者が欲しい情報をどうやって発信するのか。これまでは普及指導員が直接伝えてきましたが、ビッグデータはなかなかそうもいきません。いまの技術を活かし、ウェブ上から生産者がアクセスし、1人ひとりがほしいデータを見ることのできる仕組みにする必要があると考えています。