令和3年度IoPプロジェクト国際シンポジウム レポート 研究動向紹介

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研究動向紹介

作物生理生態AIエンジンの開発

高知大学IoP共創センター 特任研究員 野村浩一氏

野村氏が最初に語ったのは、農業を研究するうえでの目標について、「最も重要なのは、作物収量の向上。収量は収入に密接に関係するだけではなく、世界の食料安全保障においても重要だ。農家は収量を上げるために、温室内の環境を制御している。そうした管理や作業が、収量にどう関係するのか。経験豊かな生産者ならその関係を知っているかもしれないが、そうではない人も多い。そこで、生産者に情報提供したいと考えている」と作物生理生態AIエンジンを開発するための研究の意義と方向性を語った。

情報のなかでも大切なのは光合成で、「炭水化物を得るための手段で、成長や収量に大きく影響する。光合成を測定するには、特殊な箱を使ってCO2濃度を測る方法もあるが、生産者は忙しいので現実的ではない」と話す。その代わりに活用できそうなのはAIだが、「AIモデルを学習させれば、光や温度、CO2、湿度、風といった情報から群落の光合成速度を測定できる可能性がある。しかし、実際には学習のための十分なデータを準備できない」。そこで考えたのが、ハイブリッドのAIモデル。「まず簡単に収集できる情報を使って、個葉の光合成の速度を出す。この情報と葉面積指数を合わせるハイブリッドなアプローチにより、群落の光合成速度を出すことができる」と斬新な方法を明らかにした。

収量に直結する生殖成長についても重要視。「花の数は果実の数と関係しており、果実が特定の大きさになると収穫される。花の数や果実の数をリアルタイムでモニタリングできれば、非常に役立つ。収穫の数週間前から収量を予測することもできる。そこで、AIの画像分析を使って、花や果実の数を数える技術を確立した。現在では花や果実の数をリアルタイムで見える化できるようになった」と大きな成果を紹介した。

実際にナスの収量予測を目指し、群落の光合成の変化をモニタリング。「モデルを用いて計算し、AIのデータを組み合わせた。この方法は非常に上手くいき、AIが収量を数週間前から予測できることがわかった。様々な農家で活用することが可能で、現在、開発を進めている。非常に多くの有益な情報を提供できるので、施設園芸の生産性がもっと上がるのではないかと思う」と高知県の農業を変える可能性があることを示した。

最後に、今回のプレゼンテーションのまとめとして、「作物の生理生態情報の可視化は、施設園芸における作物生産に貢献することは間違いない。そのために光合成、栄養成長、生殖成長を可視化できるAIエンジンが構築されつつある。しかし、AIだけでは十分ではなく、AIと生理生態プロセスの情報を組み合わせなければならない。そうすることで、将来的には新しいテクノロジーが生み出されると思う」と未来に向けた展望を語った。