令和3年度IoPプロジェクト国際シンポジウム レポート 基調講演2

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基調講演2

持続可能な食料システムのためのデータ連結

オランダ ワーヘニンゲン大学農業経済研究所 主任研究員 ジョス・ファーステーゲン氏

ファーステーゲン氏は講演の冒頭で、「近年、世界的な環境変動もあって、農業に対する社会的な要求が年々強くなっている。我々はそういった要請に応えなければならない。どのような研究を行っているのかをオープンにする必要がある」と述べた。EUでは多くの農場からデータが収集されているが、この状況に農家は心配していると明かす。「プライバシーを保護するための規則であるGDPR(EU一般データ保護規制)は農家にも影響を与えている。どのような条件で情報を共有するのか、情報を共有する場合の契約はどうなるのか、ということも明確化しなければならない」と問題点を語った。

データの意味については「データは意思決定をするうえで非常に重要だ。現在、食の安全性や安全保障、環境、栄養、健康といった様々な懸念事項があり、これらを解決するためには多くのデータが欠かせない。科学技術に関しても、アルゴリズムの改善やAIのテストなどに膨大なデータが必要となる」。さらに、オランダにおけるデータ管理のあり方を「農家や生産者とデータを共有したい場合は承認が必要となる。例えば、企業や大学がデータを欲しければ、身元を示して承認を願い出る。そして、農家側が使って良いという許可を出すわけだ」と紹介した。

ヨーロッパでは農業に関するデータが注目されており、「農場データを手に入れるための本格的な戦いが始まった、といってもいいかもしれない」と分析。EUの現状と問題点について、「EUではイノベーションを育成し、市場活動を強化するために共通データ領域を開発した。個人データはGDPRで保護されているというが、農家からは異論の声もあがっている。オランダでは環境活動家が全酪農家の住所を公開せよと裁判を起こした。結論は高等裁判所に持ち越されたが、こうしたケースが続けば農家は政府を信用できなくなってしまう」と個人データの扱いに苦慮している現状を語った。

こうした問題が起こったため、EUでは農業協同組合に当たる大きな組織が動いたと説明。「農家が他者とデータを共有する場合は契約すべき、という行動指針を作った。この行動指針には原則があり、データの収集や共有、処理する目的をはじめ、データに関連して当事者が持つ権利と義務、データの保管方法に関する情報などを明確に取り決めておくことが求められている」と説明した。ただし、こうした契約を交わしても、「信頼関係が築けるかどうかは疑問。契約後も継続的に関係を構築していくことが大切だ」と促した。

ファーステーゲン氏は講演の最後に、「今後もデータをめぐる戦いは続いていくだろう。GDPRや行動指針なども役立つだろうが十分ではない。アメリカには『テーブルにいない人はメニューになる』ということわざがある。議論の場に着かなければ、その場に取り残されてしまうというわけだ。この講演を聞いている農家の方は、ぜひ、自身も議論に加わってほしい」と強く呼び掛けた。