令和3年度IoPプロジェクト国際シンポジウム レポート 基調講演1

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基調講演1

Internet of Plants(IoP)の共創

~作物生産のDXを目指して~

高知大学IoP共創センター 特任教授 北野雅治氏

北野氏は冒頭、「IoPとは何なのかを国際的に宣言し、熱意を持ってIoP共創センターの開設について発表する」と講演でのミッションを述べ、「私は40年にわたり作物の生理生態プロセスについて研究してきた。そのなかで動的モデルの提案を行ってきたが、農業の現場ではプロセスを可視化することができなかった。そこで5年前、可視化するためにIoPを提案した」と自身の研究経緯を披露した。

 農業は工業などと同じ、モノ作り産業だと定義し、「作物の生理生態プロセスを応用し、光合成によって生産するのが農業だ。農作業とは、そのプロセスを最適化するためのものだが、モノ作りのプロセスとしては不十分と言わざるを得ない」と問題点をあげた。では、どうすればいいのか。「農業従事者は作物の生理生態プロセスを日常の作業では可視化できない。一方、工場においては先進システムやIT技術の活用により、生産プロセスの定量情報をリアルタイムで可視化、モニタリング化している。農業でも同じように、自動化のためのシステムを開発し、需要に合わせた生産を実現し、量、質、価格を最適化することが可能だ」とこれまでにない新しい考え方を示した。

作物の生理生態プロセスを把握するには、最先端のAIの活用が必要だと主張。「作物に関するビッグデータは、独自に開発したIoPクラウドシステム“SAWACHI”に集まり、リアルタイムで可視化される。農家はこれにアクセスして情報を共有できるので、有効な営農支援情報を得て、作物の量、質、価格を最適化し、戦略的な農場経営を実現できるようになる」とIoPの持つ可能性を強調した。さらに、「情報を地域の農家集団で共有することで、農家のスキルを多面的に向上させ、グループ全体の農業スキルを高めることができる」とIoPによる地域の農業のボトムアップに期待した。

「作物の生理生態プロセスのDX(デジタルトランスフォーメーション)はミッション・インポッシブルではないか、と不安に思っていた」と打ち明けた北野氏。しかし、独自にIoPハイブリッドAIモデルを開発し、生理生態AIエンジンと農業支援AIエンジンを連携させることにより、「ミッション・ポッシブルの課題になった」と力強く語った。IoPハイブリッドAIモデルには、➀営農現場での取得が容易な入力データのみで運用可能、②少量の学習で高い再現性と普遍性を実現、③継続的に学習を重ねるごとに進化する、④複雑多様な生理生態プロセスに適用可能、以上4つの大きな強みがあると語った。

2021年10月に設立した高知大学IoP共創センターについては、「共創という言葉には、コラボレーションによる相乗効果で革新的な創造ができるという期待が込められている。IoPクラウドシステムの“SAWACHI”は、施設園芸のデジタル変革を目指すものだ。センターはIoPの最初の学術的パイオニアとして、SAWACHIに搭載された生理生態AIエンジンと農業支援AIエンジンの研究開発と機能強化を推進していく」と述べた。そして基調講演の最後には「私たちは農家、行政、産業界、大学と協力し、実空間とバーチャルスペースの両方で共創することができる。この活動によって、Society 5.0における、より先進的な農業を達成したい」と締めくくった。