令和5年度IoP技術者コミュニティ成果発表会が行われました

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2024年2月7日、高知県産業振興センターにてIoP技術者コミュニティ成果発表会が開催されました。IoP技術者コミュニティは、「IoPクラウドに関連する技術的知見が得られ、具体的な技術の習得ができる組織」をコンセプトにした産学官のコミュニティです。参加者が業種や組織の壁を超え、楽しみながら新たなテクノロジー分野に挑戦、スキルアップに励んでいます。当日は会場の隣に、実証実験の成果や新しい製品、開発に関する技術などを参加企業が紹介する展示コーナーも設置し、盛んに交流が行われました。

はじめに、令和5年度におけるIoP技術者コミュニティの活動報告について、発表がありました。定例会(全8回)の内容やプログラミング・AI技術の習得を目的に開催された技術者組織講習会(全5回)など、1年間を振り返りました。


●データ連携基盤活用実証事業報告
令和5年度の「データ連携基盤活用実証事業」について、受託事業者から3つの成果報告がありました。本事業は、SAWACHIを活用した新サービスの社会実装に向けて取り組む実証事業です。事業者は、実証の進捗等をIoP技術者コミュニティで報告し、グループレビュー等を通して、アドバイスを受けながら取組を進めてきました。

① 普及型クラウドカメラ開発とAI 駆動型システムとの掛け合わせによるビジネス
モデル実証
KCC・鳥取スター電機グループ共同企業体

カメラはIoPクラウドの眼になる部分。普及拡大には、イニシャルコストとランニングコストの問題がある。工事不要の普及型クラウドカメラを開発するとともに、AI駆動型農業の推進に向けて、OpenAIのCLIPモデルを活用した「新たな栽培管理方法」も並行して検証。目視確認を必要とするハウスの状況を、画像解析で数値化し、生産者や営農指導員の業務を軽減することが目的。


ー成果報告ー
・電源に挿すだけで即時撮影可能なカメラの開発
・簡単設置、環境体制の検証
・生理生態AI、花数実数AI実行
・OpenAI CLIPプログラムコードのコミュニティへの無償提供

・振り返りと課題
クラウドカメラは、対象物がはっきりしている場合、比較的正確に判別できた。一方、圃場全体を撮影したケースでは相対的に対象物が小さく写った。画像を適度に分割しながら物体検出を行ったが、負荷が高く処理に時間がかかるため、改善が必要。

② 「紫外線発光光源」を活用したデータ駆動型病虫害防除技術の実証
長尾商会・ぷらっとホーム・NTTアグリ共同企業体

従来の化学農薬に代わる物理的な防除技術として「紫外線発光光源」に注目。IoPクラウドに収集される環境データと組み合わせ、圃場の状況に応じて適切な紫外線発光光源の照射を制御する仕組みの検証を行った。防除効率の向上、電力コストの削減、化学農薬削減による環境負荷低減などが期待でき、「持続的な農業生産」の実現を見据えている。


ー成果報告ー
・幡多農業高校のトマト圃場における実証試験
・UVB積算照度(放射照度✕照射時間)の検証
・捕虫シートの設置と計測
・紫外線照射による作物への影響の調査

・振り返りと課題
一定の防除効果は確認できた。正確な実証には、さらなる検証データの蓄積が必要。大学、JA、技術センターと連携し、防除技術の確立、地域への実装を目指したい。

③露地栽培の高収益化に貢献する独立駆動型気象センサーのSAWACHI連携および潅水適期予測等の営農アドバイス通知サービスの実証
株式会社高知前川種苗・ソフトバンク株式会社

電源確保が困難な露地栽培の圃場を想定し、営農アドバイス通知サービスの実証を行った。露地での収穫量増加に成功したソフトバンク株式会社のセンサー「e-kakashi」に、METER 社の気象センサーを追加し、露地栽培用の気象観測や土壌水分センサーなどのデータから、潅水適期等の営農アドバイスを通知するサービスの創出を目指した。


ー成果報告ー
・6圃場へのセンサーの設置
・土壌堆積含水率の予測例の作成
・降水量と土壌堆積含水率における差分検出
・気象メッシュデータと実測値の比較

・振り返りと課題
栽培を支援する上で、どういうデータが必要なのか、ユーザー視点の意見を機器設置やヒアリングにより開発に活かせた。事業終了後も取組を継続し、予測精度向上に努めたい。

●IoP技術者コミュニティ技術者講座セッション
成果発表会の後半では、「デジタル変革:ChatGPTによる施設園芸データ活用の未来展望」として、県内企業や農業技術センター、農業イノベーション推進課などから、立場の異なる4名の受講者が参加し、職場における「AIの活用状況」について発表を行った。AIの実演デモンストレーションなども行われ、AIの可能性や様々な業界での活用事例により、これからの「農業とAI」について理解を深めた。



●講評と閉会の挨拶
今回のコミュニティ成果発表会についてアソシエイトフォロー、レビュアーの方々から講評をいただいた。

・廣見哲夫(JA土佐くろしお)
技術革新も大事だが、現場の需要を知ることも同じくらい大切。実証事業報告では、農家さんが「欲しい!」と思えるような様々な取組が多く、今後の商品化や改善に大いに期待したい。

・福本昌弘(高知工科大学)
失敗や成功を共有することは大事なこと。様々な分野のスペシャリストが参加する本コミュニティはそれを試せる土台でもある。新たに得られた知見を、農業に活かして欲しい。

・岩尾忠重(高知大学 IoP共創センター)
AIが導き出せるものは、すでに世の中にある。新しい発想は、実証報告から分かるように「人」を中心に生まれる。あくまでもAIは手助けをするものということが、農業での活用のヒントになる。

・市川仁平(高知県産業振興センター)
技術者が様々なサービスを開発するなかで、農家さんとのコミュニケーションが新たな展開を生むことが多いと感じた。農家さんとの連携や、意見の共有を積極的に進めて欲しい。


最後に、高知県農業振興部IoP推進監の岡林より閉会の挨拶があり、成果発表会は閉会した。

「研究成果や展示を拝見し、SAWACHIの新たな可能性を感じました。全国からも多くの企業が参画いただき嬉しく思います。『SAWACHIに繋がなくていい』と言う農家さんもおられます。しかし、実際に機器のデモを見せて、『こういう風に変わって、楽になる』とプレゼンすると改めて興味を持ってもらえます。今後は、こうした技術と農家のマッチングにも力を入れていきます。次世代農業の最先端を走る高知県として、実証試験やプラットフォームの改善に努め、日本における次世代農業の成功モデルを目指します」