2023年2月21日、高知県立幡多農業高校教師の安部誠一郎さんが開発した「IoPデジタル教材」を使った体験授業が同校で行われました。
安部先生は2022年4月から1年間、教員としての資質や指導力の向上を図ることを目的にした「高知県産業教育内地留学者制度」により、高知大学のIoP共創センターで研修に参加。データ解析やプログラミング技術などデータ農業に必要なスキルの習得に取り組み、その一環としてIoPデジタル教材の開発も行いました。
授業では実際にIoPデジタル教材を使用。データの閲覧や画像投稿をやってみるというデモ体験を目的に実施しました。グループごとに座る19人の生徒たちを前に、安部先生はまず、IoPとは何かということから話を展開。栽培データを見える化し、IoPクラウドSAWACHIに蓄積し、営農に役立てるという、全国に先駆けた取り組みを紹介します。そして、データを読み解く力について説明し、そのメリットを解説。「将来、AIがあらゆる場面で活用されるようになりますが、情報を扱うのは結局は人間です。では、どのような力が必要になるかといえば、データ分析の力が重要ではないでしょうか」と訴えます。
安部誠一郎教諭
「IoPデジタル教材は、IoPクラウドに集まったデータを、データサイエンスを学ぶために活用できるようのではないかと考えたのが始まりです」と安部先生は開発した教材について説明します。IoPクラウドと幡多農業高校をつないで、データの見える化やデータ解析に活用。さらに他の農業高校や篤農家ともデータのやり取りなどができるように設計されています。今回の授業では、篤農家として夜須町でフルーツトマト生産者の新田益男さんに参加してもらい、教材を実際に使ってみようという取り組みを行います。
先生の指示に従って、生徒たちはノートパソコンでIoPデジタル教材を立ち上げます。初めての画面に、生徒たちは興味津々。幡多農業高校と新田さんの圃場の環境データの見方や、コメントのあげ方などの説明の後、搭載されているチャット機能を使ってみます。この機能によって、生産者や農業高校生同士でのやり取りが可能になります。
生徒は、思い思いのコメントと写真を教材にアップ。チャット機能を体験しました。
後半は、新田さんがオンラインで授業に参加。農業のプロの視点から、アドバイスやコメントをもらう趣向です。
生徒たちは環境データや生育データ、圃場の写真などを使い、グループごとに疑問点や気づきをまとめたスライドを作成します。まず、データを見て、どこに着眼するのかがポイント。生徒たちはパソコンの画面を見せ合いながら、何をテーマにするのか、どのデータを使うのか、見せ方はどうするかなどを話し合って決めていきます。画像を探す、グラフをつくるなど、作業を分担しながらスライドをつくるグループもありました。
約30分かけてでき上がったスライドは、教材にアップ。それに対して新田さんはアドバイスのコメントをあげていきました。最後は、各グループの代表がスライドの内容を発表。それに対しても、新田さんが講評を加えました。例えば、あるグループがハウスのCO2濃度に着目し、農業高校2校の濃度が高かったり、低かったりしている一方、新田さんが安定しているのはなぜかと疑問を挙げたのに対して、「ハウス内と外との濃度差によっては、CO2が外に逃げていく。そうしたロスのないように、私は外気との濃度差を考えて濃度を決めている」とアドバイスしていました。
発表が終わって、「とても勉強になり、ありがとうございました」と生徒たちがお礼の言葉を伝えたのに対して、新田さんからは「がんばってね」とエール。最後に安部先生が、「来年度、このような授業が増えていくと思うが、楽しんで学んでほしい」という言葉で締めくくりました。今回の授業を受けた生徒たちは、「自分たちが知らなかった、新しい農業を学ぶことができて良かった」「データを見て考えるのは初めてでしたが、楽しかった」と感想を話してくれました。
【授業を終えて】
想像していた以上に、生徒たちが楽しそうに取り組んでくれて、反応が良かったことに、教材としての手ごたえを感じました。農業高校の教員として、生徒が農業に対して興味を持ってもらうことは、教えるうえで最も大切にしています。
高知県はIoPの取り組みも含め、全国的に見てもすごい熱量を持って施設園芸を行っている地域だと思います。今回の授業のような形で生徒が体験することは、農業の新たな担い手の確保にもつながるのではないでしょうか。
今回の教材開発は、高知大や高知県の協力なくしてはできませんでした。産学官民によるIoPを使った農業教育をしていくうえでの、ひとつの基盤ができたのではないかと思います。
今後は生徒にどんどん活用してもらい、一緒に改良を重ねていく予定です。