IoPクラウド活用ワークショップ開催

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2022年3月11日、高知県は「IoPクラウド活用ワークショップ」をオンライン会議形式で開催した。日本初の施設園芸発データ連携基盤「IoPクラウド(SAWACHI)」のビジネス活用を促すことが目的のワークショップには、県内外から農業関係者をはじめ、流通や人材派遣など幅広い業種の11の企業と個人が参加した。

冒頭、県農業振興部IoP推進監の岡林俊博が挨拶。「多くの企業と連携して、IoPプロジェクトをより推進していきたい」との目標を掲げ、「IoPは農業だけでなく、さまざまな産業とつながることで、新たな付加価値を生み出せる仕組みだ。現状、1400軒の農家とIoPクラウドがつながり、日々、さまざまなデータが集まっている。施設園芸農業の飛躍的発展を実現するだけでなく、IoPクラウドは幅広い産業で使える夢のあるプラットフォームに育ってきた」とIoPの目的とIoPクラウドの現状を明かした。蓄積されたデータを企業が活用できる理由として、データを提供する農家が県と「高知の農業に寄与するプロジェクトであれば利用可能」というデータ利用契約を結んでいることにあると説明。さらに、実際に製品を使用する環境と同等の環境の実証基盤「テストベッド」を備え、IoPクラウドと同じ環境でデバイスやアプリの開発を行うことができることを紹介し、「IoPプロジェクトは自治体が中心になってDXを進めるモデル」と位置付けた。

続いて行われたセミナー①では、「DX、データ活用のビジネスについて」をテーマに、事業構造のトランスフォーメーション支援などを進める(株)INDUSTRIAL-X代表取締役の八子知礼氏が講師を務めた。DXが目指すのは、現実世界のデータを収集し、クラウドというデジタル空間でシミュレーションや分析を行う「デジタルツイン」の世界だと定義。全国に数万ある印刷会社をネットワークでつなぎ、重要と供給のマッチングを実現したITベンチャーを成功事例に、「これまでの農業では、作りすぎて値崩れを起こすという、ほかの製造業ではありえないボトルネックがあったが、IoPで需給のバランスを最適化することが可能になる。さらに、データの蓄積によって価値が高まり、その活用によって新しいビジネスを仕掛けることができる」と方向性を示唆した。さらにデータを使ったシミュレーションの場合にどの範囲のデータを確認するかという「データカバレッジ」の考え方や、全ての課題は物事の境目に生まれており、そこにこそデータ活用の可能性があることなど、データ活用ビジネスの創出に向けてのアドバイスを重ねた。最後に「蓄積されたデータをうまく使って、ビジネスを作っていこうという発想を持ってほしい」と締めくくった。

セミナー②では、県農業イノベーション推進課/IoP推進機構の松島弘敏が、IoPクラウドの概要を説明。「2021年度に構築したIoPクラウドプロトタイプは改良を重ね、22年度中に本格稼働を開始する予定。一層企業との連携を加速させ、IoPクラウドにつながるデバイスやサービスを増やしていくフェーズになった。企業の皆さんにいかに活用してもらうかに、プロジェクトの成否がかかっている」と強調した。続けて民間企業では集めることが難しいIoPクラウドの蓄積データの有用性を説き、さまざまな研究によってビジネスの種が生まれる可能性にも触れた。「今後はIoPクラウドを県外にも展開したいと考えている。県内企業のクラウドを使ったビジネスの全国展開も可能になる」と語った。

セミナー③は、NEC(株)コーポレート事業開発本部AgriTech事業開発局マネージャーの村川弘美氏を講師に、アグリテックの事例等について解説した。「アグリテックとはアグリカルチャーとテクノロジーをかけ合わせた造語。アグリテックによる課題解決を考える場合、何を課題にするかが大切」と説明し、「スマートフードチェーン」など新規ビジネスを考えるうえでのキーワードを説明した。アグリテックの事例として、「生産・加工に重点を置かず、隙間を狙ったビジネスとして、農地活用事業やヒューマンリソースなどを行う企業では、遊休農地と農業をやりたい人をつなげるマッチングビジネスを行っている。本来、交わらない関係をデータ活用で結びつけているところが素晴らしい。人手不足解消にもつながる」と評価。そのほか、生産者と生活者のコミュニケーションを作るようなサービスの提供や、AIやシミュレーション技術を使った営農の最適化、規格外産品のBtoBのマーケットプレイスの運営によるフードロス削減など、国内外5社のスタートアップ事例を紹介し、ビジネスを考えるポイントをあげていった。

セミナーを挟んで行われたワークショップでは、参加者が3チームに分かれてIoPクラウドを活用した新規ビジネスを検討した。約2時間にわたる検討の後、各チームで考えたビジネスモデルを発表。「IoPクラウドを活用した施設園芸のCO2削減のビジネス」、「IoPクラウドを利用した、「おいしさ」を数値で見える化するサービス」、「大都市圏で家庭菜園を始めた人がIoPを利用し、篤農家の営農指導を受けるサービス」「ITに強い農家による、他の農家へのIT支援サービス」など、8件のビジネスモデルが披露された。
セミナー講師からは、「面白い着眼点」「ステークホルダーすべてがウィンウィンになることを目指した点が素晴らしい」「IoPプロジェクトにも取り入れたい視点」「斬新なビジネスモデル」など高い評価。両講師はアドバイスともに「ぜひ事業化に結び付けてほしい」と参加者の背中を押した。