基調講演3
施設園芸のデジタル化
オランダ ワーヘニンゲン大学植物研究所 研究員 アンナ・ペトロポウロウ氏
ペトロポウロウ氏の講演は、自律的な園芸が主要テーマ。「経済成長や人口増加で食料の需要が増え、生産性の高い温室が必要になってきた。いまの農業のトレンドは、持続可能なエネルギーを使うという方向に移行している。さらに節水やゼロエミッション(CO2排出ゼロ)、農薬や化学物質不使用、高い温室での垂直農法、植物工場なども導入され、センサーやAIの応用も行われるようになった。高度生産システムの完全な管理が必要だ」と農業の現状を解説した。
こうした状況下、自律的な温室の必要性が高まり、「長期的にはフルオートメーションを目指すことになる」との方向性を示した。「AIは人間では十分理解できない分野に活用でき、灌漑や滴下施肥、害虫、病気などをリアルタイムでモニタリングし、インテリジェントな意思決定ができる。また作業を自動的にハンドリングし、ロボットによる収穫も可能だ」と専門的な視点から解説。ただし、自律的なシステムを作るのは簡単ではなく、「短期間では達成できない。カギとなるのはデータで、十分な量を集めなくてはならない」と自律的な温室を運営するためのポイントを述べた。
次いで、オランダで手掛けているプロジェクトについて解説した。「ハイテク温室では屋内外の気候、作物、根域、灌漑などのデータなどを集めてデジタル化。インタラクティブなツールを活用し、いま温室内がどのような状況なのか、作物がどう育成するのかがわかる」。官民共同の「アグロス」という国家プロジェクトにも参加。「作物の生理生態を非破壊的に情報収集し、リモートで栽培をコントロールするのがプロジェクトの目的だ。ハイブリッドシステムを採用し、アルゴリズムとコンピュータビジョンを組み合わせている。将来的には、より先進的なディープラーニングを用いて完全に自動化したい」と雄大な構想を語った。
ほかにも、「データ駆動型灌漑」「病害虫検出」「自動害虫計数」「デジタルツイン」「レタスチャレンジ」といった興味深いプロジェクトを紹介。「デジタルツインは温室内の環境変化をとらえ、リアルとバーチャルの2つの温室でトマトを栽培するものだ。収穫のタイミングなどの意思決定を支援するツールの開発に役立てたい」と語った。レタスチャレンジはオンラインでレタスを栽培する世界的なコンペで、「24か国から46チームが参加し、遠隔による自動化栽培を競っている」というユニークな取り組みだ。
最後に講演のまとめとして、「自律的な温室については、徐々にステップを踏みつつ進めていく。気候や作物を理解して、有用なデータを十分収集しなければならない。必要に応じて、非破壊的にデータを収集できるセンサーを使いたい。センサーやシステムは十分に堅牢なものであることが大切だ。ロボットについては剪定や間引き、収穫などが自動でできるようにしたい。これらの複合的なシステムを駆使した自律的な温室を目指している」と目標を話した。