令和7年度IoPプロジェクト国際シンポジウムが開催されました

イベント

2026年2月7日、国内外の研究者や農業関係者を招き、IoPプロジェクト国際シンポジウムが行われました。テーマは、「IoPの社会実装を考える―植物×データ×生成AIで拓く持続可能な未来」。会場の高知大学物部キャンパスに集まった現地参加者とオンラインによる国内・海外からの視聴者合わせて約180名が、約3時間にわたって講演やパネルディスカッションに耳を傾けました。

会議の冒頭、高知県の濱田省司知事、高知大学の受田浩之学長より、主催者の開会挨拶が行われました。

●濵田省司 高知県知事

「本プロジェクトは、園芸農業の発展と関連産業の創出を目指し、県・大学・産業界が連携して取り組んできました。中心となるIoPクラウド「SAWACHI」は、県内で1700を超える生産者に利用されており、利便性向上の取り組みも進んでいます。また、環境データと目標値を比較し、改善点を自動表示する機能の試験運用も始まり、生産性向上が期待されています。参画企業は81社に拡大し、AIを活用したビジネス実証や課題解決の取り組みも活発化しています。これらの取り組みが、園芸農業と関連産業のさらなる発展につながることを願っております。」

●受田浩之 高知大学学長

「2018年度に国の事業に採択され、IoPプロジェクトは県内の産学官が連携して進めてきました。このプロジェクトが10年という期限をまもなく迎える中、これまでの成果を整理し、共有すべき重要な時期に入っています。国・県からの支援に応えるためにも、成果を可視化し国富の増大につなげることが求められています。近年の円安や貿易赤字の拡大、とくに食料品の輸入増が課題となる中、地域が食料生産と輸出に貢献する重要性が高まっています。IoPにより、農業は労働集約型からデータ基盤型へと転換しつつあり、生産性向上を全国・世界へ展開する段階に来ています。」

●講演①

「普及指導員のための農業特化型生成AIの開発の現在」

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)

農業情報研究センター データ研究推進室 上級研究員  桂樹 哲雄氏

「農研機構では農業版の生成AI開発を進めており、そのために必要なデータを集めるため全国44都道府県と約100団体を訪問し、協力を依頼してきました。ChatGPT登場を受け、農業分野に特化した大規模言語モデルの必要性を強く感じたことが背景にあります。しかし農業データは蓄積が少ないため、自治体の公開情報を用いたオープンデータと、提供者限定で扱うクローズドデータを組み合わせてモデルを構築する仕組みを整えました。課題として、データ提供の難しさ、生成AIのハルシネーション、データ量不足が挙げられます。対策として、普及指導員向けの利用設計や、データベース参照型の回答方式を導入しています。これらの取り組みでできた農業特化型生成AI試作アプリは、認証基盤によるセキュリティ確保、文脈理解、病虫害判定などの機能を備え、地域データに基づく回答が可能となりました。」

●講演②

「安芸市の農業未来ビジョン」

安芸市長  西内 直彦氏

「高知県安芸市は平野部を中心に施設園芸が盛んで、ナスとユズは全国トップクラスの産地です。農業所得の86%をナスが占める一方、農家数と基幹的従事者は大幅に減少し、高齢化も進んでいます。このため、新規就農者の確保を最重要課題とし、JAや県と連携したトータルサポート体制やサポートハウスの整備により、定着率90%という成果を上げています。また、スマート農業の導入を推進し、SAWACHIの普及に力を入れ、補助制度を活用して導入を拡大してきました。その結果、利用者数は県内最多となり、収量も増加しています。また、私が前職で経営した(株)はぐみ農園では、データを基盤とした栽培管理を重視し、比較・推移・割合を用いた分析で技術向上を図ってきました。今後は、地域に蓄積される精度の高いデータを活用し、産学官連携で産地の維持と生産性向上につながることを期待します。」

●講演③-1

「株式会社下村青果商会の事業内容と今後の展望」

株式会社下村青果商会 取締役(創業者)  下村 晃廣氏

株式会社下村青果商会 代表取締役  西村 宙晃氏

下村氏「私は高知県須崎市で独立就農後、南国市で大型ハウスを建設し、法人化とM&A を経て事業を拡大してきました。現在は土耕110アールに加え、200アールのオランダ型ハイワイヤー温室の新設を進めています。すべての生産物を自社販売する体制を整え、再生産可能な価格での流通を実現しています。今後は総面積300アール規模の経営を行い、持続的な投資と成長を続ける農家を目指します。」

西村氏「データ管理や栽培・労務管理の経験を基盤に、会社の成長戦略を担っています。現在は『圧倒的な日本一のきゅうり生産会社』を目指し、新規大型ハウス建設を計画しています。新ハウスには養液栽培やAIを搭載した最新の環境制御システムを導入し、生産性向上を図ります。2035年には売上20億円規模を目標とし、地域雇用の拡大と産地発展に貢献する企業づくりを進める方針です。」

●講演③-2

「データを基に決断:最新型音質でインテリジェントアルゴリズムとレッツグローの活用について」

株式会社大仙 海外システム室 エンジニア

七原 空文氏(ナナハラ・ソロモン)

Hoogendoorn アジア支社 知識部 マネージャー

Frank Xu氏(フランク・シュー)

七原氏「生成AIの導入は施設園芸にとって重要である一方、慎重な検討が必要です。日本の施設園芸は高齢化・担い手減少が進む一方、大規模化が加速しており、自動化の重要性は高まっています。ただし、導入には使いやすさや既存設備との互換性が不可欠であり、国内調達可能な機器の価値も増しています。Hoogendoorn社の環境制御システムIIVOは高い互換性と柔軟性を持ち、生産者が植物に集中できる環境を実現します。大仙はこうした技術を活用し、データ駆動型の持続可能な施設園芸を日本で広げていく方針です。」

Xu氏「Hoogendoorn社は50年にわたり、園芸自動化を進めてきました。未来の栽培は直感ではなくデータに基づく判断が中心になると考えます。気候コンピュータによる予測制御や遠隔管理が可能となり、若い世代でも高度な栽培が行える環境を整えることが重要です。園芸データを一元管理するレッツグローやインテリジェントアルゴリズムを開発し、植物の生理に基づく最適な環境制御を実現します。最終的には、温室全体を統合管理する未来のコントロールルームの実現を目指しています。」

●パネルディスカッション

「生成AIの社会実装に向けた課題と連携の可能性」

                   ・ファシリテーター 東京大学大学院情報学環・学際情報学府  越塚登氏

                   ・パネリスト       講演者 桂樹哲雄氏

                                               講演者 西内直彦氏

                                               講演者 下村晃廣氏

                                               講演者 西村宙晃氏

                                               講演者 七原空文氏

                                               IoP農業研究会副会長・きゅうり生産農家 越智史雄氏

                                               株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)ディレクター

                                               株式会社高知IoPプラス取締役 木村嘉宏氏

パネルディスカッションの冒頭、ファシリテーターの越塚登氏による「生成AIとデータが創る世界」と題した講演が行われました。

「SAWACHIのようなデータプラットフォームとAIをどう結びつけるかを、これから考えていかなければなりません。現在のAIブームの中核となる技術は機械学習、とくにディープラーニング。自然言語を扱える大規模言語モデルの登場でAIは大きくブレイクしました。しかし、オープンな学習用データは数年で頭打ちになると見込まれ、今後は各組織が持つ非公開データとAIをどう融合させるかが鍵になります。農業分野では、SAWACHIに蓄積された重要データとAIを組み合わせた「農業特化型AI」の構築が自然な流れであり、安全に秘密データを扱える仕組みづくりが重要です。また、日本全体としても、AIとデータを結びつける社会基盤を産学官連携で整備していく動きが進んでいくと考えます。」

パネルディスカッションでは、高知県の農業におけるIoPの社会実装と生成AIの活用可能性について議論されました。最初に、生成AIへの期待と現場での活用の可能性について、パネリストからは新規就農者への技術習得段階が省略できる可能性や、自動制御の信頼性への懸念、AIを使いこなすテクニックを習得する必要性などの発言がされました。AIとの役割分担と信頼性の議論では、AIの提案に対する人間の最終判断の重要性や、植物の回復不可能性を理由とした慎重なアプローチの必要性などに言及。データ共有と技術的課題への対応についての問いかけに対しては、国レベルでの統一的な取り組みや外部企業へのデータ流出防止の重要性などが議論されました。

●全体コメント

ワーヘニンゲン大学 経済研究所 アントレプレナーシップ・ビジネスイノベーション

上級研究員

Jos Verstegen氏(ヨス・フェルステーゲン)            

「AIの活用のリスクについて、EUのAI法が示すリスクピラミッドで説明します。低リスク領域では請求書処理や害虫画像解析など有用な活用が進む一方、ChatGPTのような大規模言語モデルにはハルシネーションの問題があり、十分なデータ量とローカルでの安全な管理が重要です。今後は公開データだけでは限界が来るため、SAWACHIのような非公開データとAIを結びつけることが鍵になると考えます。また、温室の完全自動化には高いリスクが伴うものの、AIを適切に活用すれば生産者の判断や作業を支援し、さらなる増収につながる可能性があり、SAWACHIには素晴らしい未来が待っています。」