【IoP農業研究会】新連載コラムNOTE(第7回) 「100ワットは明るいのか暗いのか?」

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 本コラムは、植物生理や栽培環境の基礎について、日々の栽培における気づきや課題解決に繋がるような情報を、定期的に発信しています。お時間あるときにでもお読みください。

第7回目のテーマは、『100ワットは明るいのか暗いのか?』です。

 めちゃくちゃ明るくていつも元気な人をときに揶揄することばで、「あの人はトイレの100ワットやねぇ…」なんていうことを言ったりしますが、その意味としては「無駄に明るい…」といったところでしょうか。電球の100ワットとは、正しくは1時間で消費するエネルギー量を示すものであり、明るさを表すのはルクスやルーメンという単位で、これらは電球を買った時の箱の裏などに書いてあります。それでも私たちの生活のなかでは、「あの人はトイレの1000ルクスや!」などと言うひとはまずいないですし、「明るさ」を表現するのにワットを使うことは普通に浸透していることですね。

 SAWACHIの画面にも、センサーで測定した日射を「日射量100W/㎡」などと表示していますので、目にしている方も多いかと思います。

 この日射量の100ワットについても、1時間で1㎡あたりに100ワットのエネルギーを与えていることを表わしていて、明るさを表しているものではないのです。でも私たちにはエネルギー量を感じることは難しいので、日射量についても目で感じる「明るさ」で捉える方が分かりやすいですね。

 温度や湿度を体感で把握して、それらが実際の数値データと合致できる方はいらっしゃると思いますが、日射の体感値と数値が合致している人はそうは多くないと思います。日射は温度・湿度とともに重要な環境要因の一つですので、同じように体感と数値が合致できるようになることは、栽培をするうえでも有効な才能になるのではと思います。

 曇雨天日が3日も続くと、めっきり収量が落ち込むことは皆さん実感していますね。また冬至前後の時期よりも節分を過ぎて立春になると、収量もグンと増えてくることも分かります。それらはまさに日射量が「光合成」という植物が自ら栄養を作り出す能力に凄く影響しているからに他なりません。3日間の日射不足は光合成不足(栄養不足)を引き起こし、春の日射は豊富な光合成の(十分な栄養の供給)材料になっているということですね。

 それでは季節ごとの日射について大まかな量を把握できるように比較してみましょう。

 このグラフは高知市の過去3年間の月別、旬別(上旬・中旬・下旬)別の平均日積算日射量の変化です。ここ2~3年は過去にない気温上昇もありますので、あらためてこうした日射の変化があるということを覚えておくことは栽培にとっても大切なことです。

 積算日射量の単位はメガジュール(MJ/㎡)といって、先ほどのW/㎡が1秒間の瞬間値を表すのに対して、その数値を1日分(24時間x 3600秒)で積算した数値になります。単位についてはあまり気にせず、例えば「1月の今頃はだいたい10MJちょっと、5月になると20MJに近くなる」などと把握しておけばよいでしょう。

 日射量の推移を見てみますと1月から2月の上旬まではあまり変化が無いのですが、中旬からまさに節分・立春で増えて行き、3月になると残暑厳しい9月の中旬頃の日射量より多いことが分かりますね。さらに4月から6月の梅雨前までにはすでに夏の7月~8月と同じくらいの日射量があることが分かります。このようなデータで見える変化は、皆さんのこれまでの感覚による変化と同じでしょうか?あの夏の強い日差しと同じくらいの日差しが春には既に降り注ぎ始めていることに驚いた方も多いのではないでしょうか。

 日射量の増加は光合成量に大きく影響しますし、蒸散量も増えるので灌水量についても意識する必要がありますね。節分から3月までの急激な日射量増加時期などは、特に注意が必要になると思いますので環境測定装置で把握したり、備えていなければ気象庁のサイトなどで確認するなど取り組んでみてはいかがでしょうか。

気象庁の過去データ検索サイト:
https://www.data.jma.go.jp/gmd/risk/obsdl/index.php

次に一日の日射量の変化についても見てみましょう。

 こちらのグラフは、つい先日の今年1月上旬と、日射量が増える時期である去年の3月上旬の、1日の時間ごとの日射量変化の平均値をグラフ化したものです。季節ごとに時間帯によってどのくらいの日射が変わっているのかを把握することも栽培をする上で有効な情報となりますね。

単位はSAWACHIなどで表示されるワット(W/㎡)になります。このデータは高知気象台の日射データで 外日射となりますので、ハウス内は被覆資材をとおすので低い値になると考えてください。参考までにSAWACHIニュースで掲載の農業情報研究室便りでは外日射の65%をハウス内日射としております。

 ここで分かるのは1月の日射は7時台からとなりますが、3月上旬は5時台に既に日射を受け始めています。日の入りも1時間程度の差があります。さらに一番日射が多いのが1月は11時台で3月になると12時台と少し遅くなっています。なによりも3月上旬の赤線グラフと1月の黄色グラフの面積の差が、3月と1月の日射量との差になるので、どれだけ日射量が増えるかが良く分かりますね。

 繰り返しになりますが、こうした日射量の変化・増加は、光合成量や蒸散量に大きく影響しますので、それによる生長速度に合わせた栽培管理をする上でも、日射量を意識することはとても重要だということがお分かりいただけたかと思います。

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 今回のテーマである「100ワットは明るいのか暗いのか?」ですが、電球ではなく、日射で考えると今の時期だと朝の8時くらい、やっと陽が当たってきたなぁというころでしょうか。夕方だと16時くらいがハウス内の100ワット程度の日射量になりますね。実はこの100ワットという日射は光合成の働きにおける目安となる数字なのですが、こちらについては別のコラムのテーマにしたいと思います。

 まもなく節分・立春を迎えて1年で最も日々の日射量増加の激しい時期に入ります。ぜひこの機会に日射についての感覚と数値を意識して、栽培に活かしてみてはいかがでしょうか。

次回に続く
(IoP農業研究会 情報発信担当)

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