本コラムは、植物生理や栽培環境の基礎について、日々の栽培における気づきや課題解決に繋がるような情報を、定期的に発信しています。お時間あるときにでもお読みください。
第8回目のテーマは、
『日射比例灌水のススメ』です。
前回のコラムは日射についてお話しました。特に節分・立春以降は日射量が急増するタイミングですよとお知らせしましたが、今年2025年の立春は2月3日でそれにつられて節分は2月2日になるようです。なんでも地球とか太陽といった天文学的な計算の関係からズレの修正がたまに必要らしく、立春の日付が微妙に変わるときがあるらしいのです。ですので今年は春が1日早くきますよ~。たかが1日、されど1日なので今年は日射の増加も早いかもしれないですね!
日射量が増加するにつれ蒸散が増えるとお伝えしましたが、それはなぜなのでしょうか。蒸散とは葉っぱの気孔が開いて植物体内の水分が蒸発していくことを指しますが、蒸散量を左右する要因は次のものになります。
● 相対湿度
● 気温・葉温
● 日射量
● CO2濃度
● 葉の大きさ
● 風速
それぞれどのような影響を及ぼすのかの説明は今回省きますが、蒸散にもっとも影響しそうな『葉の周りの相対湿度』のほかにも、結構いろいろあるのです。そして、日射については気孔の開き具合に影響して、日射が強い方が気孔は大きく開くのです。つまり気孔が大きくあけばそれだけ蒸発面積は広くなるために、蒸散量は増えるという理屈ですね。

ひとつここで実験をしてみましょう。ご自分の瞼を気孔に見立てて、しっかり瞼を開いた状態でまばたきを何秒間我慢できるでしょうか?思ったより短い時間で我慢できなくなりませんか。次に瞼を半分だけ開いた状態で計ってみましょう。半分だけだとずいぶんと長い時間我慢できるようになりませんか。こんな実験でも、開く面積での蒸発具合(つまり蒸発量の差)が実感できるのではないかと思います。
原理は気孔もまったく同じで、開度が大きければ蒸発量は多くなります。ちなみにですが、お風呂の湯船につかった状態でしっかり瞼を開いてみるとかなり長い時間我慢できます。これは周りの相対湿度が高い状態では乾きにくい(蒸発量が少ない)ためですが、湿度が高いと蒸散が進まないことがナルホドと感じられますので是非一度お試しください。

さて日射量が増えれば蒸散量が増えることが分かったところで、日射比例灌水のお話に移りましょう。とはいってもお高い日射比例灌水装置をおススメしますということではなくて、今までの灌水方法に日射情報を活用しませんか、ということです。この一番のメリットは灌水の過不足を防止することです。感覚で灌水量を決めていたりすると、どうしても日射よりも気温を優先してしまい、「まだ寒いから水を増やすのはもっと先…」などとなりがちになるので、日射データを日々活用して灌水量を調整することで、灌水過不足を未然に防ぐ取り組みができるのではないでしょうか。
そこで便利なのがSAWACHIの日射予測ですが、皆さんは見たことありますか?見ていないという人は早速SAWACHIのトップ画面の「気象情報」の右下にある「詳細>」を選んでみましょう。

詳細画面にはまず「温度・湿度」グラフが表示されますが、その下に行ってもらうと「日射量・降水量・天気」の情報が表示されます。ここには4日(96時間)前までの過去実績データと、翌日までの予測が出ています。日射量についてはオレンジの実線が現在以前の実績値で、今後の予測値は点線で表示されます。そして右上の「日射量を積算表示」にチェックをするとグラフが変化量ではなく積算値に変わります。この状態で過去4日分の日射量と比較をしてみましょう。

この画面例は1月20日早朝に表示したもので、前日の実績情報と今後の予測がわかります。19日は曇り時々雨の1日で積算日射量は1600弱でしたが、20日中の日射予測は3700程度で倍以上増えるということが分かります。この例は日射量の差が大きく出ていますが、晴が続く時などはこれほどの差はでてこないので、その増減幅に合わせてその日の灌水量を調整することで日射量に合わせた調整(日射比例灌水)ができるようになります。毎日同じように実施すれば、季節が進んで日射量が増えるとともに灌水量も増やしていくことになり、栽培期間をとおして灌水の過不足をおこすことがなくなると思います。
このやり方ならば、これまでの経験値を元にポンプの稼働時間で畝ごとの水量調節をしているような場合でも、日射に合わせた時間調整で対応できます。灌水を行う直前にSAWACHIで画面を開いて、昨日より日射がどのくらい多いのか、または少ないのかを見るだけの簡単な情報確認だけです。例えば、「ここ最近の日射量は500程度増えていて、今日の日射予測も少し増えそうだから、今日は灌水時間を少し増やしてみよう」という感じです。
このSAWACHI日射予測情報を用いた日射比例灌水の取り組み、日射の増加が著しいこの時期に是非取り組んでみてはいかがでしょうか。
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今回は日射比例灌水についてご紹介しましたが、1月の日射量が5月には倍増するので灌水量も倍に増やせば良いというわけではありません。日射の増加に合わせてどれだけ灌水量を増やすかは、蒸散量や圃場の土の性質によってずいぶんと変わります。粘土質の圃場で、水を増やすと通路がぬかるんで作業性に支障が…といったケースもあるでしょう。そこは圃場主の経験と勘が活かされるところですが、土の性質と水の動きなどについても、コラムのテーマとしていつか取り上げる機会があればと思います。
最後にお知らせです。IoPコラムを読んで植物生理に興味を持たれる方も増えているようで嬉しいかぎりです。もっと詳しい内容を知りたい方向けのオンライン講座、「IoP塾」の案内が下に載っています。いろいろなトピックの動画がいつでも見たい時に視聴することができますので、こちらも是非ご利用ください。
次回に続く
(IoP農業研究会 情報発信担当)
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