本コラムは、植物生理や栽培環境の基礎について、日々の栽培における気づきや課題解決に繋がるような情報を、定期的に発信しています。お時間あるときにでもお読みください。
第6回目のテーマは、
『温湿度管理で抑え込む!』です。
皆さんはSAWACHIニュースに掲載されたスペイン・アルメニア地方のBiosabor社の取組み紹介を読まれましたか?
そこには「環境制御で病害の出にくい管理を徹底していくと、カビ系の病害対策はほぼ徹底できる…」との記述がありました。となると、薬剤散布の防除は殆どというか全くされていないのでしょうかね?地中海性気候が効いて日本より管理しやすい環境というのもあるかもしれませんが、日本においても環境制御の徹底でゼロは難しくとも、薬剤散布回数を減らして病気を抑え込む取り組みができるはずでは?と感じたのでありました。
そんな折、SAWACHIにて黒枯れ・褐斑の病害予測情報が表示されるようになり、前回コラムではその対策の中身を覗いてみました。今回はその続きとして
カビ系の病気回避に必須の「植物体を濡らさない管理」
について焦点を当ててみましょう。
そもそも植物体が濡れる原因は何でしょうか。結露した水滴が植物の上に降りかかるような状態は、それこそ論外ですが、早朝の作業中に果実が濡れてきたり、葉に擦れた服がビチョビチョになるほど葉っぱが濡れていたなんて経験は誰もがあると思います。ぜんぜん濡れない時の環境と何が違うかが理解できれば、植物体を濡らさない管理が徹底できるかもしれませんね。
まず植物体が濡れてしまう原因を探ってみましょう。これは前コラムでご紹介したビールジョッキの役割を、果実や葉がおこなっているのです。つまり湿度を含んだ周りの温度より果実や葉の温度が露点温度より低くなってしまうから、結露が発生して濡れてしまうのですね。こうした状況は周りの温度が上昇する時に発生します。つまり暖房での加温や日の出後の温度上昇の時間帯が危ないですね。具体的にどんな条件で発生するのかを見てみましょう。
① 日射による温度上昇に果実温度がついていけない
ナスやキュウリといった果菜類の果実は90%以上が水分です。ですので果実が成っているというのは「中身はほとんど水」の物体がたくさんぶら下がっているといったイメージでしょうか。
ハウス内は日射や暖房で温度が上がっていきますが、空気に比べて水の温度を上げるには約4倍のエネルギーが必要なのです。同じエネルギーで温めるのであれば水は4倍近くの時間がかかると考えても良いでしょう。つまり空気は温まっているのに、果実はまだ温まっていないのです。ここであのビールジョッキのような条件となってしまえば、果実に結露が発生するのですね。

前回のコラムで示した「実温度と露点温度の分布」では90%の相対湿度であれば実温度と露点温度の差はわずか2.6℃、80%でも4.4℃です。日の出後などで短時間に気温があがると果実温度との差が開いて簡単に結露してしまうので、ゆっくり温度を上昇させて気温と果実温度の差を少なくすることが果実を濡らさないことに繋がりますね。または早朝加温などで日の出前にある程度温度をかけて果実温度を上げておくというのも良い対策です。但し日射による温度上昇程ではありませんが、暖房機であっても急激に温度があがると同じように結露しますので、暖房機の出力にあわせて時間をみながら加温することが大切です。

② 夜温が高くて湿度も高い
寒い冬でも期せずして夜温が高い日もありますね。そういう時に油断して、いつも通りハウスを閉めこんでおくと、暖房機がなかなか動かないといった状況になります。燃料コストは下がっても、カビ系の病気のリスクがぐんと高く上がってしまいますので喜んではいられません。
前回のコラムで紹介したハウス内の除湿機能である被覆の「結露」についても、夜温高で内外の気温差が少なければ活発に行われないため、除湿効果はあまりのぞめません。さらには葉っぱの気孔は完全に閉まっている訳ではなく少しの隙間は空いてしまっているので、植物体内の水分は若干ながらも蒸発してるため、ハウス内の湿度は徐々に上がっていくのですね。除湿はされないうえに植物体から水蒸気も出てくるとなると、ハウス内の相対湿度が95%以上なんてことにもなるわけです。
相対湿度95%ともなると、実温度と露点温度の差は1℃未満となってしまいます。つまり植物体と空気の間で1℃の温度差が発生するとすぐに結露して植物体が濡れてしまうのです。暖房機は設定温度より下がると加温して設定温度に到達すると止まりますが、この時に1℃以上の温度変化は普通に発生してしまいます。つまり暖房機がオンになる度に、植物体と気温の温度差ができてしまい、結露による濡れの可能性が大いにあります。
下のグラフは実際に暖房機を13℃設定で動かしたときの夜温の変化です。短い周期でオンオフを繰り返していて、最低温度と最高温度との間に2.4℃の差が見られます。もし葉の温度が13℃であった場合には最高温度との差は1.6℃に開くために、湿度が90%以上あれば葉に結露がついて濡れが発生する計算となります。

朝にハウスに入った時に、既に葉が濡れてしまっているのはこうした理由が考えられますね。もし葉の濡れが無かったとしても、夜間の高湿度環境は、日の出によって温度が少しでもあがるとビチョビチョに濡れながらの作業、なんてことも大いにあり得るのです。
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今回ご紹介した二つのケースは植物体が濡れてしまう典型的なケースです。①のケースの場合、その後の温度上昇と換気で早期に乾くのであれば発病リスクは下がりますが、②の場合は長時間の濡れとなる可能性も高いので発病リスクはずっと高くなります。相対湿度ごとの実温度と露点温度の関係を頭にいれておくこと、特に90%以上の相対湿度での温度変化は要注意であり危険ゾーンなので回避すべきと意識することが大切です。
SAWACHIなどのデータを用いて環境を把握して危険を回避する技術が身に付けば、コストも労力も高い薬剤散布の回数を減らせる可能性もありますし、なにより病気を予防することは収量を減らさない一番の対策ですので、積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。
次回に続く
(IoP農業研究会 情報発信担当)
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