9月21日、高知オーテピアで、高知県が取り組む農業データ連携基盤「IoP(Internet of Plants)クラウド」の「SAWACHI」本格運用開始に伴うセレモニーが開催されました。高知県知事の濵田省司、高知大学IoP共創センターセンター長の北野雅治氏、東京大学情報学環教授の越塚登氏、株式会社高知電子計算センター代表取締役社長の中越吉彦氏が登壇されました。一部、台風14号の影響で、出席を見合わせた参加者もおられました。
最初に高知県知事の濵田知事からセレモニー開始の挨拶がありました。
「IoPクラウドSAWACHIは、高知県の第4期産業振興計画の柱の一つのデジタル化の最重点施策です。また、国のデジタル田園都市国家構想にも沿った取組になります。プロジェクトの核となるデータ連携基盤IoPクラウドは、令和2年にプロトタイプの構築まで到達。実証にご協力いただいた生産者のご意見を踏まえながら、改良を重ねて、本日、本格運用スタートに至りました。JAグループの皆さん、大学、企業の皆さんをはじめ、ご協力いただいた多くの方のご尽力に改めて感謝を申し上げます。
SAWACHIは、生産者の方々の様々なデータを閲覧できる、例えばハウス内の環境データ、気象データ、市況データ、さらには農産物の出荷量に関するデータなど、営農に役立つ情報を一元的に獲得できます。今後、さらなる進化のために、AI技術により、見える化した生育環境データなどから最適な栽培管理、収量や売上が最大化できる条件や出荷のタイミングなどを研究しています。令和4年から、IoP農業研究会を設立し、農家の皆様、県や関連団体などと一緒に取組を鋭意進めます。また、関連産業群の創出に向け、IoPクラウドの活用に必要な機器やサービス開発が進み、商工業や製造業の世界にも波及効果が及んでくることを目指して産学官連携で進めていきたいと考えています。このIoPクラウドSAWACHIが地域産業の基盤となりますように県としてもさらに全力で取り組む考えです。」
次に、高知県農業振興部IoP推進監岡林俊宏よりIoPクラウドSAWACHIの説明が行われました。
「本県は全国一の森林県で、農耕地が少ない県です。その中でも面積当たりの生産効率は全国一で、全国平均の約4倍の生産効率です。これを支えているのが農家の皆さんの高い技術力です。県はここに注目し、この技術力をもっと高めるため、世界一の園芸王国オランダと2009年に協定を結び、作物の生育に最適な環境をつくるデータ駆動型の環境制御技術を学びました。実際に試してみると、これ以上伸ばすことができないと思っていた収量がどの品目においても20%程度伸ばすことに成功。この技術を全農家に普及させることを目標に、2014年からスタートさせデータを測定してきました。約7年かけて、今では使用品目58.7%、1,500以上の農家さんがデータに基づいた農業を実践しています。これまではハウス1件ごとのデータを各農家さんが管理・運用していましたが、共有していませんでした。そこで各農家さんのデータを自動で集約できる仕組みを構築。さらにそのデータを基に有益な情報としてフィードバックするAIエンジンを搭載し、より最適な営農管理ができる仕組みとしてのSAWACHIが遂に出来上がったことになります。単に環境データや出荷データを見える化するだけでなく、実際に環境制御することで作物自体の光合成量や葉面積指標、蒸散量などの、生育がどのように反応しているかをAIの力で世界で初めて可視化に成功しました。
IoPクラウドには自動で農家の皆さんから様々なデータが集まります。自分のデータ分析された結果をいつでも積極的にチェックして営農に活かせます。また、県の普及指導員やJAの営農指導員にも情報を共有、パソコンやスマホが苦手な農家さんにも的確に営農指導ができるようになりました。農家さんとは、県がデータ利用契約を交わしており、高度な研究開発に大学での利用や企業の皆さんがデータ駆動型の製品やアプリケーションの開発に利用できます。関連産業の更なる発展にもSAWACHIが活用できるという仕組みとなっています。この両輪で「もっと楽しく、もっと楽に、もっと儲かる農業へ」を高知で実現したいと思っています。」
実際にSAWACHIに現在繋がり製品開発に取り組む企業やデータを栽培管理に活用されている3名の農家さんにインタビューした動画の紹介を挟んで、引き続きSAWACHIについての説明がありました。
「IoPクラウドSAWACHIは、皿鉢料理から愛称を名付けました。皿鉢料理の魅力は、食べたい人が食べたい料理を食べたい順番で食べられるところです。このIoPクラウドSAWACHIの魅力も、使う人毎に欲しい情報を欲しいときにいつでも自由に使える楽しめるというところだと思います。
今、世界は本当に厳しい時代を迎えています。円安やウクライナの状況などで、燃料をはじめ、肥料や農薬、資材などが値上がりしている一方で、野菜の単価は横這い低迷が続いています。農家の経営は過去にないくらい未曽有の危機に瀕しています。このようなときこそSAWACHIをご活用いただいて攻める農業で所得を確保していただきたいと思います。収量はまだ伸ばせますので、ぜひSAWACHIを利用して対抗していきたいと思います。
SAWACHIに繋がれば、本当に毎日の営農が安心で便利になると思います。いつでもどこからでもハウス状況を確認、データに基づいて営農を改善することができます。同じ失敗を繰り返すことなく、毎日新しい技術の進歩に出会えると思います。そして、SAWACHIを通じて人と人がもっと繋がれます。1軒でも多くの農家の皆さんに積極的にご活用いただき、高知の技術をさらに高めて、高知県がどこにも負けない競争力の高い園芸産地として、次世代にも繋いでいきたいと思います。どうぞ皆さんSAWACHIをよろしくお願いします。」
続いて、ご登壇の皆様よりコメントをいただきました。まずはIoPプロジェクトの中心研究者で高知大学IoP共創センターセンター長、北野雅治氏にお話しいただきました。
「本格運用することで、IoPの見える化、使える化、共有化の機能によって生産現場からのボトムアップの創意工夫が生み出され、高知施設園芸の革新的な進化を駆動し続けることと思います。特に5年後、10年後にIoPの普及が広がり、情報の共有化が進むにしたがって各農家さんの営農技術の規格分析、優れた創意工夫の検出と分析、その共有がAIの技術などを使って可能になります。自律的で且つ革新的な農業の進化の仕組みが高知の農業で実現されることが期待されます。IoPの進化が発揮されるためには、より多くの農家さんに使っていただき、共有化を進めることが重要です。今後は情報をどう見せて、どう使って、どのように営農改善につなげるのかを新しく設立されましたIoP農業研究会などの活動を通して農家さん、普及員さん、指導員さんなどの現場の意見や創意工夫をよく汲み上げて、議論しながらIoPクラウドSAWACHIが進化していくと思います。高知県がSociety5.0型の施設園芸のパイオニアとして、永遠のトップランナーであり続けることを期待しております。」
次に、IoPクラウドの構築、保守運営の委託業務の受託事業者である共同企業体の代表企業株式会社高知電子計算センター代表取締役社長、中越吉彦氏にお話しいただきました。
「構築にあたり多くの課題に直面しましたが、関係者の皆様が親身になって相談に乗っていただき、また的確なご指導のおかげで今日この日を迎えることが出来ました。一番苦労した点は、いかに使っていただく農家の方々の目線に沿ったものができるのかという点でした。たくさんのご意見をお聞きし、改善に改善を加え、やっと使っていただけるレベルになっていったと思います。しかし、これから多くの農家の皆さんに使っていただくことで色々なご要望や改善点が出てくると思います。私たち企業は、これで完成形というイメージではなく、これからが本当の勝負だと思っています。高知県の農業発展のため、このプロジェクトについては日々進化し続けていかなければならないと思います。関係者の皆様にこれからも引き続きご指導、ご支援をお願い申し上げます。」
最後に、高知県NEXT次世代型施設園芸農業スーパーバイザーを務める東京大学情報学環教授、越塚登氏にお話しいただきました。
「IoPの元になっているIoTというのがインターネットを利用して身の回りのモノを相互に情報交換する仕組みなのですが、このThingsをクラウドしたということ、植物を相手にしていることがかなり斬新な発想だと思います。植物を計測してデータにするのは、かなり難しいことです。今回、これに挑戦されていて、さらに最先端のAIやIoTの技術も導入し、最先端の農業が実践できている。この分野は、まだまだ世界の中でも進展が激しく、新しい技術などを積極的に取り入れて最先端を走っている高知県の園芸農業にぜひ取り組んでいただきたいと思いますし、私も取り組んでいきたいと思います。
また、SAWACHIは、データ連携基盤を農業で行っています。私は政府のデジタル庁で電算センターの仕組みをつくっており、その中の様々なデータ基盤を見てきていますが、恐らく農業に関するデータ基盤でSAWACHI以上のものはないと思います。国内色々農業に関する取組はあるのですが、これほどの品質と広がりを持ったデータ基盤、しかも農業Society5.0をベースとした考え方で農業に適用していることは日本で随一だと思います。次なる日本のデータ基盤を支える一つになると思いますので、ぜひ私自身も貢献したいと思いますし、SAWACHIが日本を代表するデータ基盤へ、益々の発展を遂げ、高知の農家の皆様がより高い生産性、より高い収益性をもった農業を実現されるとことを祈念したいと思います。」
最後に、ご登壇の全員で、SAWACHI本格運用開始スタートに向けカウントダウンの合図に合わせて大きなボタンを押すセレモニーが行われ運用開始を記念したキックオフイベントは、終了しました。